新しい仲間
久しぶりの更新です。
いやぁ、受験勉強がいよいよ大詰めなので…。
「さてとりあえず受付に行くか……」
俺は入り口を目指して歩く。前方の入り口まで約500m。かなり長いな……。
「まぁ時間も余裕あるし、気長に景色でも見ながら歩くか……」
(『んなもん俺を出せば一瞬だぜ!』)
(「ありがと。でも、今はいいや」)
目立ちたがりの紫月の扱いには今ではもう慣れたもの。
心の中のリンクを遮断することで考えもばれないようにすることが出来るようになった。
と言うか、親父に教えてもらった。
入り口までの道に沿って植えられている桜も満開で風が吹く度に趣深くひらひらと舞い散る。
入り口まで到着して玄関に入る。そして、手前の受付に行き名前を言って制服とパンフレットを受け取る。
「えっと……俺の教室は、1ー2か……。お、あったあった」
とりあえず、教室に行き担任の指示を待てとのこと。
俺が教室に入ると半数以上はもう来ていた。1クラスの人数は24人。それが3クラスある。
教室は少し教卓の辺りが広いがそれ以外は普通だった。
みんなが揃い席に着いた頃。
「う~す。みんな席に着いてるなぁ。じゃあ出席確認するぞ」
シワの入ったシャツに緩んだネクタイ。シワの入ったスーツ。ボタンは1つも止めていない。
そんな教師には見えない男がダルそうに頭を掻きながら教室に入ったきた。
低血圧症のように顔色が悪い。くわえ煙草がよく似合いそうな感じの雰囲気。
何故か銀に近い白髪。緑眼。
「じゃあ、俺の紹介から。俺の名前は夏目千晶だ。えっと……この髪は産まれつきだ。色素欠乏症ってやつだ。顔色は見ての通り低血圧症だ。んまぁ、一応、日本人だ。あと、目はカラコンだ」
何故、カラコンなのかは分からないが見た目通り実にダルそうに喋る。
「自己紹介は後だ。まずは入学式だ。とりあえず体育館に移動するぞ」
それから、出席番号順に並び更衣室で着替えてから体育館に向かった。
制服はもっと派手なやつを想像していたが、普通の学ランだった。
体育館に着くと椅子が用意してありそこに座った。
入学式が始まり、新入生の名前が呼ばれる。俺も何事も無く返事をして座る。校長が舞台の上に上がり挨拶を始める。
なんと、校長は女だった。親父の友人とのことだったので男だと思っていた。
「えー、長いのは面倒なので短めに。まずは諸君、入学おめでとう。これからも勉学に励むように。……あとは、そうだな、死ぬな!以上だ」
……速⁉もう終わりかよ!凄いサバサバした校長だな。ってか、死ぬな!ってどういうことだ?死ぬ危険がある事もするってことか……?
その後も入学式は生徒会長の挨拶をして、普通に終わった。生徒会長はまともだった。
次は能力測定らしい。体力、霊力、式神術、結界術、使鬼神術を測定するらしい。
「最初に説明しておくと、能力にはA〜Eまでのランクがある。Aに近い程その能力は高い」
測定はみんなで一斉に行う。
体力は走ったり、ボールを投げたり、重りを持ち上げたりした。
霊力はレーダーみたいのでピピッと測定した。
式神術、結界術ともに自分が出来る最も強力なものと他の技をいくつか先生に見せた。
使鬼神術は校長の指示で個室に入り先生に見せて、使鬼神の霊力または妖力をレーダーみたいのでピピッと測定した。
あ、厳密にはランクはアルファベットに+が付いたりもするらしい。+がつくほうが能力は高い。
俺は、
体力 B
霊力 C
式神術 C+
結界術 C+
使鬼神術 A
総合 B
一見、低いように感じるが、1年生でこの能力値は凄いらしい。先生がとても驚いていた。
てか、尋常じゃないくらい高いらしい。まぁ先祖返りですから。
1年生の能力値の平均は、
体力 C
霊力 D+
式神術 D
結界術 C
使鬼神術 E+
総合 D+
まぁこれが普通らしい。
体力がCなのは才能よりも修行で能力が上昇するからそこまで低くない。
結界術は霊力操作が器用に出来れば能力は高くなるから。
使鬼神術は使鬼神の強さを示すがランクが低いのは単純に使える人が少ないから。
……らしい。
とりあえず入学式はそれで終わり。
あ、そういえば自己紹介は結局しなかったな。
この学校には寮がついているらしい。学年別の。
学校の正式名は 龍天流陰陽術師養成学校だが、世間一般にはばれてはいけないため東徳山中学校という事になっている。一応、中学校なのだ。故に学ランか……。
けど、国が秘密裏に妖の存在を認知しているため助成金がたんまり降りる。
普通の授業はほとんど無い。
そんな事を考えながら歩いていると寮についた。その距離はなんと1.5kmくらい。
どんだけ広いんだ、この学校の敷地は……。
寮に入ると同じクラスの……あ、自己紹介してないから分からないや。
まぁ、同じクラスの奴がいた。2人部屋らしい。さすが、国から助成金がおりているだけあるな。
「えーと、俺の名前は霧雨智樹。よろしく。君は?」
俺は荷物を適当な場所に置きながら言った。
部屋には勉強机が2つと2段ベッドが置いてある。あとは、棚がある。広さは6畳間くらい。2人なら十分だ。
洗濯機は洗濯機だけが置いてある部屋に20個くらいある。通称:洗濯室。
風呂は大浴場がいくつかある。1回で30人くらい入れる。
「俺は、倉田啓介だ!よろしくな!飯はどうする食堂でくうか?それとも作るか?」
元気だなぁ。こいつ。
短髪に健康的な日焼け具合。いや、地黒か。見るからに元気一杯って感じ。
この学校は建物自体は少し大きいくらいだが無駄に敷地が広いため、食料品や生活用品を扱う店もある。そのため自炊出来る。
「そうだな、とりあえず食堂で友達を作ろう。そうしないと寂しい……」
ここには色んな地方から集まって来ているから基本的にほとんどの奴が友達がいない状況なのだ。
だから、友達を作らないと結構寂しい。神社がご近所さん同士とかだったら友達はいるがそんな奴等は少ない。
俺たちは食堂へ向かった。
列に並んでご飯やオカズを受け取り適当に1人でいる男子を狙ってその向かいに立つ。
食堂は300人弱くらい座れる。全校生徒が全員座れるくらいの席があるということだ。
「……ここ、良いかな?」
俺が声をかけた。
「えぇ。別に構いませんよ……」
なんか静かな奴だな。
「とりあえず、自己紹介しようぜ!」
司会進行は啓介。ん?何故かって?なんか得意そうだから!
「俺は霧雨智樹。よろしく。ランクはBだったかな?」
「俺は倉田啓介だ!よろしくな!俺はD+だ!って、は⁉オイ!智樹、Bってマジか⁉」
さっきと同様に自己紹介を行う。
「……僕の名前は、椎名ミカドです。ランクはC」
クールだな。肩より少し上くらいの長髪に、切れ目。整った顔立ち。雰囲気から知的ってのが伝わってくる。
モテるんだろうな。
「オイ!マジかよ⁉俺がこんなかじゃ1番雑魚じゃん!」
けど、D+って普通だから。ごくごく普通だから!
「霧雨君はBなんですか……。凄いですね……」
やはり驚いてはいるが冷静に事実を受け止めるといった感じだ。
「君はいらないよ。あと、智樹でいい。その代わり俺もミカドって呼ぶから」
「分かりました。……じゃあ、智樹……」
「おう。……ミカド」
なんか恥ずかしいな……。やっぱり、友達になるときってこんな感じだよな。啓介のときがおかしかったんだ。
「オイ、オイ!ミカド、智樹!俺も混ぜろよな⁉」
こいつは相変わらず馴れ馴れしいというかなんというか……。
ある意味尊敬するよ。
「うるせーよ!こんな近くで大声だすな」
俺は耳に指を突っ込んでうるさいとアピールしながら言った。
「ミカドは使鬼神術は使えるのか?」
みんなはどの程度の使鬼神を持っているのか知りたかった。
「一応使えます。ランクはDですが……。智樹は?」
「俺も似たようなもんだよ」
BってだけであれだけびっくりするんだからAなんて言ったらもっとびっくりだろうから本当のことは言わない。
「智樹!俺にも聞いて、聞いて!」
こいつ、面倒臭ぇ~。
「あー、はいはい。啓介は使鬼神術は使えるのか?」
「使えるぜぃ!ランクはCだ!お前等より高いぜ!」
お!意外に強いな。
自己紹介を兼ねた夕食を終え、部屋に戻って寝た。啓介もミカドも俺と同じ2組だった。
今日は疲れた……。
倉田啓介
体力 C+
霊力 D+
式神術 D
結界術 E+
使鬼神術 C
総合 D+
椎名ミカド
体力 D+
霊力 C
式神術 C
結界術 C+
使鬼神術 D
総合 C
翌日。
HRで軽く全員が自己紹介をした。そのあとは早速授業。
今日は霊力の色について午前中は勉強するらしい。
先生は夏目先生。
「えー、まず霊力というのは個人差があれど人には必ずあるものだ。そして、人それぞれ霊力の色が違う。色の違いはあまり関係はない。いってみれば個性だ。
色の例は、教科書の2ページを読んでおくように。
みんな、霊力の放出方法は分かるよな?体の中の力を練り上げて頭の上から出すイメージだ」
適当だなぁ。基本中の基本だからそんなもんか。
「じゃあ、実際に出してくれ。……あ、先に俺が出すからよく見とけよ?」
先生の霊力の色ってどんなだろ。金色だったりして。いや、あの先生にそれは無いな。いいとこ灰色って感じだな。
「じゃあ、やるぞぉ~」
先生が目を閉じ一瞬の沈黙のあと、目を開けるとユラ~と灰色の霊力が出て来た。
当たっちゃったよ!本当に灰色だったよ!
「「「お~」」」
なんとなく歓声が上がる。
「じゃあ、各々ある程度出せるようになった者から教卓まで来て俺に見せてくれ」
そっか、あんまり出せない奴もいるのか。修行を始める年は人それぞれだから少し出せる程度って奴がいてもおかしくはない。
完全に素人ってのは流石にいないが……。
もちろん俺たち3人は出せる。使鬼神術を使える時点で必然的にそういうレベルってことになる。
「しゃっ!1番乗りーー!!!」
先生が話し終わると同時に大声を出しながら走り出した啓介は1番最初に見せにいった。
「おぉ元気だなぁ。おい」
先生も少し呆れ気味だった。
「ウッス!それじゃあ倉田啓介、いっきまーす!……はぁっ!」
威勢よく叫び、一気に霊力を解放する。
ブワッ!
啓介の髪が一瞬逆立った。
「しゃあー!出たぜぇ!」
啓介の霊力の色はまさにピッタリと言うかなんと言うか、笑えてくるくらい啓介らしかった。
その色は太陽の如きオレンジ色。
輝きは太陽程ではないが綺麗なオレンジ色だった。
「「「おーー!かっけぇー!」」」
男どもは盛り上がり、我先にと先生のもとへ押し寄せた。女子は凄いなぁといった程度で少し歓声を上げた。
俺とミカドはとりあえずは傍観者。
混雑している中に行くのは面倒だってのもあるし、みんなのやつを見ているのも結構面白い。
「イエーイ!やったぜぃ!」
いったときと同じく、威勢よく元気に啓介は帰ってきた。ただし、上機嫌で見せに行くとき以上にテンションは高かったが。
それからみんな順調に霊力を見せにいっていた。
「そろそろ行くか?」
そろそろ見せに行かないともうほとんどの奴が終わったし最後になってしまう。なんとなく最後って嫌じゃん⁉
「……そうですね」
という事で、先生のもとへ見せに行く。
先にミカドが見せる。
「……ではいきます。……フゥー」
静かに目を閉じて息を吐く。
軽く髪がなびく。
静かに溢れ出す霊力。
その色は水を連想させるような一点の曇りもない澄んだ青色。まさに明鏡止水の如く。
女子たちがうっとりとした声で「「「……綺麗」」」と言うのが聞こえた。
確かに見惚れる程、綺麗だった。
整った顔立ちに綺麗な霊力。リア充爆発しろ!と叫びたくなるが必死におさえた。
「色は青色っと……。よし、もう辞めていいぞ」
先生がそう言うとミカドは放出を辞めた。
「ありがとうございました」
最後まで礼儀正しい。
「んじゃあ、次は俺の番だな」
俺はそう言って教卓に向かう。
「霧雨智樹です。では、いきます。……はっ!」
啓介と同じく、一瞬髪が逆立つ。
瞬時に溢れ出す霊力。
出た色は……赤色というより紅色に近い。まさに紅蓮。炎のような色。
親父との修行のときも思ってたけど、カッコいいな。
「「「かっけぇー!」」」
歓声は嬉しいが、あんまり目立ちたくないんだがな……。
「龍夫と……父親と同じ色だな」
先生の目はとても柔らかくて優しかった。まるで昔を思い出しているような。
周りのざわめきとは切り離され別の世界にいるような感覚に襲われる程。
「……父を知っているんですか?」
「まぁ現党首ってのもあるが昔からの付き合いだ」
昔の戦友とかかな?
でも、今それをきくのは辞めておこう。……だって先生が本当に楽しそうに微笑んでいたから……。
「ありがとうございました!」
俺はしっかりと礼を言って席に戻った。
「智樹~!なんだよ!めっちゃくちゃカッコいいじゃねぇか!俺より目立ちやがってぇ~!」
「んなこと知るか!まぁお前よりはカッコよかったけどぉ~」
俺はおどけた調子でいった。
そんな感じで午前の授業は終わった。
午後。
「んじゃ~授業初めんぞぉ。とりあえず、式神術のランクがC未満の奴等はここに残れ。別の先生が来るからな。じゃあC以上の奴等はついて来い」
俺とミカドはC以上だったが啓介はC未満だった。
「よぉ〜し、着いたぞぉ」
そこは体育館だった。
「ここは強力は結界が張られているから多少暴れても大丈夫だ。てことで自習な。好きに練習しろ」
これまた凄い適当だなぁ。これで給料もらえるとか緩いな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ~。智樹は分かるとして、なんでミカドまでC未満じゃないんだよぉぉ!」
「はーい、それじゃあ授業を始めるわよ~」
声はオッサンだったが口調からは女性が入って来たのだと思った。
しかし、実際に入って来たのはダイナマイトボディーとはかけ離れたガッチリムキムキボディーに青髭を生やしたやけに原色ばかりを身に纏う男だった。
ようするにク○ス松村にもう少し筋肉を付けたみたいな感じ。もちろん化粧はケバい。
名前はたしか……杉田十蔵だったっけ?渋いな。
そうして授業が始まった。
「まず式神術には2種類あるのは知っているわよね?1つ目は呪符に弱い霊や弱い妖を乗り移させて従わせる方法。
2つ目は呪符に自分の霊力を込めて使う方法。どちらも長所と短所があるんだけど、今日は2つ目の方法をやってみるわよ♥ウフン♥」
うげっ!今、こっちに向かってウィンクしなかったか⁉
もしかしてマークされたか⁉もしそうだったら……ヤバい!!!
とりあえず目を合わせないようにして、目立たないようにしなきゃ!
クソ、こんなときにミカドがいれば!そしたらあいつがマークされるのに!
「じゃあ、誰かやってみて頂戴。そうねぇ……そこの君、前に来て♥」
「・・・お、俺っすか⁉」
「そう、き~み♥」
ガッチリマークされてるぅぅーーー!!!
ヤバい、泣きたい!この場から全力で逃げたい!
男、啓介!いざ散って来ます!
「……はい」
仕方なく席を立ち教卓にむかう。その足取りはやけに重く感じた。まるで鉛の重りでも引きずっているような。
周りの男子からは「隊長、彼方の事は忘れません!」的な尊敬の念が伝わって来る。
散ってくるぜ、みんな!
お母さん、お父さん。ごめんなさい。今日、僕……(変な方向に)大人の階段、登っちゃうかも。
先生が俺の肩に手をまわしてくる。
「ま、かわいっ♥そんなに緊張しなぁいの♪ナニ硬くなってんの♥」
変な意味じゃないぞ!硬いのは体が硬直してるだけだぞ!
「は、はいぃ!じゃ、じゃあいきます!」
クソ、まともに呂律もまわらねぇ。もともと式神術は苦手なのに尚更集中なんか出来ねぇよ!
俺はポケットから人形の呪符を取り出す。星のマークが描いてある。
集中!集中しろ!俺!
「我に宿りし霊力よ、この呪符を媒体にし我が意のままに動け!」
バシッという音を立てて呪符が飛び、教室の天井付近で飛び回っている。
「「「おぉ!」」」
みんなが歓声をあげる。
「なかなかね」
先生もそれなりの評価を付けてくれた。と言っても偵察用に使う比較的扱いが楽な式神なのだが。
「へっへー。まぁ俺がその気になりゃこんなもんよ!」
俺は式神をこちらに向けて飛ばして上手くキャッチしようとしたが、先生が俺の腰に手をまわした瞬間。
ガッシャーーン!!!
完全に集中力が乱れ、窓ガラスに式神が突っ込んで窓ガラスをぶち破った。
「はっ!」
咄嗟に先生が式神を飛ばして結界を張り破片を包み込むようにして破片の雨から生徒を守った。
す、すげぇー!先生って意外に強かったんだ!
「ふん。まったく、世話が焼けるわね」
「あ、ありがとうございました!十蔵先生!」
お礼を言った瞬間、先生が俺の胸ぐらを掴みあげた。
「じゅ、十蔵っていうなぁぁ!!!……てめぇ、今なんつった?あぁん?誰が十蔵だコラ⁉」
ひ、ひぃいぃーーー!!!まさかこんなとこに地雷があるなんてぇ!
「す、すみませんでした!つい先生の美しさに嫉妬してしまって!どうかお許しを!」
頼むこれでなんとかおさまってくれ!
「……し、仕方ないわねぇ。ま、彼方が謝る姿も可愛かったし、許してあげるわぁ♥」
ふぅ~。助かったぁ……。
「……けど、次はねぇと思え。次言ったらケツに鉛玉ぶち込むぞ!」
先生がもの凄くドスがきいた声でいった。ヤ◯ザ!!!先生って実はヤ◯ザなんじゃないのか⁉
「はいっ!!!」
なんとか無事に?おさまってくれた。
その後は、グランドに出て基本的な式神の練習をした。
あ、式神術のときに用いる詠唱はなくてもいい。詠唱することにより、霊力の消費量が少なくなる。また、詠唱することで呪符に宿らせる霊を扱い易くなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んじゃあ、練習開始。式神同士で実戦形式で試合しても良いぞぉ。……ただし、怪我したり死んでも自己責任な。危なかったらなるべく仲裁には入いるが……」
最後の言葉が引っかかるがまぁ良いかとりあえず、ミカドと練習するか……。
「おい、ミカド!一緒に練習しないか?」
「良いですよ。僕なんかで良ければ……」
体育館は広いし、式神術のランクがC以上の奴等は少ないから多少式神を飛ばしても誰かに当たる心配はないだろう。
10mくらいの距離をとり向き合う。
「じゃあ、行くぜ?」
「はい」
式神術のランクは同じ。
ポケットから呪符を1枚取り出す。
普通の縦長の紙に四角いマークが描いてある呪符だ。漢字でいうと口みたいな感じだ。
「この地に住まいし霊よ、我に従え!」
そう言ってミカドに向かって呪符を飛ばす。呪符は空中で鴉に変わった。
鴉はミカドの方に飛んで行く。
が、あと、2〜3mで当たるというその瞬間、
「はっ!」
偵察に使う式神を3体飛ばして鴉を迎撃した。ただし、この式神自体は弱いため相殺された。
両者の式神ともただの動かない紙に戻り床に落ちる。
「次はこちらからいきます!」
「こい!」
しばらく式神のぶつけ合いをしていた。
そしてミカドは10枚程、呪符を取り出した。
「この地に住まいし霊よ、我の呼び声に応えよ!」
ミカドは一気に呪符を智樹に向けて飛ばす。そして呪符は空中で1つに固まり、ゆうに人の2倍はある人形の式神が現れた。
霊を1度に10体も操るなんて……。
「はぁはぁ……。これが僕の全力です!」
大量に霊力も消費したのだろう。肩で息をしている。
「式神合成⁉ミカド……ありえねぇだろ。けど、こっちだって……。行くぜ!」
式神合成なんて中1が使うような技じゃない。
けど、俺の方が霊力量は多い。
俺は人形の呪符を10枚程取り出す。
「呪符よ我が霊力の媒体となり意のままに動け!」
俺は巨大な式神に向けて呪符を飛ばす。流石に10体以上の霊を1度に操るのは困難を極めるため呪符に霊力を込めた。
ここまではミカドと同じ。けど、これはただの撹乱。しかし、ミカドは霊を使った式神なので霊と式神を操作しなければならないため撹乱しやすい。
その効果は十分。
「まだいくぜ!この地に住まいし霊よ、我に従え!」
更に5枚の四角いマークが描いてある呪符を取り出し飛ばす。
俺が飛ばした式神は空中で大鷲に変わる。
ミカドの式神は俺の人形の式神を攻撃するが、デカい分、動きが遅い。
ほとんど、数は減っていない。
「こいつら全て捉えきれるか?」
おそらくミカドは式神を維持する程度の霊力しか残っていないはずだ。
「これで決めるぜ!大鷲よ炎を纏え!いっけえぇー!!!」
大鷲たちが炎を纏う。
ミカドの式神の隙をついて大鷲たちを一斉に四方八方から突撃させる。
更に人形も突撃させ追い討ちをかける。
ドッカーン!
まさに爆発音。爆風が俺とミカドを襲う。
「「くっ!」」
必死に爆風を耐える。
爆風がおさまると同時にミカドの所まで走り寄り喉元に人差し指を軽く突きつけた。
「はぁはぁ……。これがナイフだったら死んでるぜ。くっ、霊力を結構使っちまったが……俺の……勝ちだ!」
俺も肩で息をする。いや、まともに息も吸えない。
「……ふっ。完敗です。……敵いません」
肩で息をしているミカドは降参の意を示すように両手を挙げながら言う。
俺は指を下げる。
「完敗?ギリギリだったよ……。どっちが勝ってもおかしくなかったさ」
「……そうだな。良い戦いだった」
「せ、先生⁉見てたんですか?」
戦いに集中し過ぎて周りが見えていなかった。
「そりゃあ近くでこんなに騒げばなぁ」
先生は案外楽しそうに笑っていた。
そして、結構な高評価。
みんなも各々で練習したり、試合したりしたらしい。
息が上がっている。
俺たちは30分近く戦っていたらしい。
俺たちは霊力をかなり使ったのでしばらくは戦えない。つまり、隅っこで見学……。
「つまんねぇなぁミカド……」
「そうですか?僕は好きですよ。こんな戦い方もあるんだって勉強になりますからね」
……真面目かっ!
「ミカド……お前って奴は……お前って奴はなんて良い子なんだぁ~!」
あれ?こんな言い方でこんな感じの言葉……どっかで聞いた様な……?
・・・
はっ!そうだ!親父だ!親父が俺を褒めるときの言い方だ!
もしかして似て来てるのか⁉そうだとしたら……ふっ。血は争えねぇなぁ。……なんて渋く決めてる場合じゃない!
あの親父には何があっても似たくねぇ!
「あ、ありがとう!お父さん!」
ミカドが俺の手を握りながら言った。
って、ミカドもなんかノッて来たし!
ミカドってこんなキャラだったかの?
「しっかし、お前。なんで式神合成なんて使えんの?」
「僕の家系は、式神使い だからです」
「式神使いって何?」
「霧雨ぇ…お前そんな事も知らないのか?」
せ、先生⁉いつのまに。先生ってなんか気配が無いんだよなぁ……。
生き物は大小はあれど、必ず気配はあるものだ。まぁ隠そうと思えば隠せるがなんかそんな感じとは違うような……。
それに、話しかけるのに気配を隠す必要が無い。
「はぁ~。お前って奴は……。式神使いもびっくりな戦い方をしたと思えばこれか……」
「え?どういう事ですか?」
「普通は式神使いしかやらねぇよ。15体を一斉に使役するなんて。はっはっは!お前といい、お前の親父といい、まったく予想外だよ。感覚でなんでもしちまう」
お!先生が珍しく声をあげて笑っている。
これって褒められてるんだよな?確かに直感でやったが、親父もそんなことしてたのか。
「……あ、式神使いについてだったな。式神使いってのは文字通り式神術を専門的に扱う者たちの事だ。故に使鬼神術より式神術を重点的に修行するため式神術の方が得意だ。ミカドもそうであるようにな……」
そういうことか……。
だからあんなに式神を使いこなしてたわけか……。
「僕の場合は使鬼神術が苦手だってのもあるんですけどね」
ミカドが舌を少し出してイタズラっぽく言った。
ギャ、ギャップ萌え!!!
「それでも智樹には勝てなかった……」
「次やったら本当にどっちが勝つかわかんないぜ?」
俺たちはその後は、霊力が回復したため2人で技の練習をした。練習というより主にミカドに教えてもらったと言った方が正しいかもしれないが……。
「それじゃあ、今日の授業はここまでにする」
夏目先生のその言葉で授業は終わった……。かなり疲れた……。
「……いいな!いいな!智樹だけズルいぞぉ!」
俺たちは各々の寮の部屋に戻った。
ミカドとの試合の事を啓介に話すと凄く羨ましがっていた。
「お前が式神使うのが下手だからだろ。ミカドはお前より確実に強いぜ」
「んぬぅ~。絶対にお前等を抜かしてやるぞぉ!」
好きにしてくれ。抜かすとか抜かさないとかどうでもいい。
「はいはい。んじゃ、洗濯行こうぜ」
「そうだな。行くか!」
俺たちは洗濯物片手に洗濯室へ向かう。因みに乾燥機も完備。
「あ、今から洗濯ですか?」
そこには洗濯物を乾燥機に入れて乾くのを待っているミカドがいた。
「あぁ。今日は汗かいたからな」
「しかし、びっくりしましたよ。いきなり大鷲が燃えるんですから」
「いや、ミカドの方こそ式神合s…」
「隙あり!くらえミカドぉ!この地に住まいし霊よ、我に従えぇー!!!」
俺とミカドが談笑していると、啓介が急に式神を放った。場所考えろよ!
だけど、ミカドは冷静に
「はっ!」
バシッ!
無詠唱で式神を飛ばして啓介の式神を撃ち落とした。
「な、なんで⁉完璧に隙を突いたのに……」
啓介は意味が分からないと言いたげに困惑していた。
「もう。いきなり何するんですか。びっくりするじゃないですか!」
対するミカドは言葉こそびっくりしている風だが、表情には余裕がある。
「はいはい、そこまで。早く洗濯するぞ。ミカドもこんな奴相手にしなくていいぞ」
この調子でやってたら消灯までに洗濯が終わらない。
ただでさえ、もとから乾燥機にかけて乾く頃には消灯ギリギリだったってなのにこれ以上のタイムロスは許されない。
因みに、消灯は10時。ぶっちゃけ部屋で静かにしてりゃあ起きてても良いらしい。
見回りにもたま~にしか来ないらしい。先生も眠いからって理由で……。
「それじゃあ、僕は終わったので部屋に戻りますね。おやすみなさい」
最後の最後まで、美少年は爽やかに礼儀正しく去っていった。
その後は、地味に洗濯と乾燥が完了するのを待って普通に部屋に戻って寝た。
ミカドの名前は、黒いバイクに乗った首なしライダーとカラーギャングと情報屋が登場するあの作品から頂きました。
もう一つの方も近々更新したいです。
いや、します!絶対しますから見捨てないで下さい!