8 ゴタゴタの顛末 その2
「ありがと、団長。」
「あちらの言い分も職務上は、いたし方ないことですので…ご不快にさせたのであれば申し訳ありません。」
「いや、皇都で抜刀がだめって、知らなかったからな。俺も悪いさ。」
そう言い、ひょいと身体をずらし、少女に声をかける。
「マーヤ、だったよね。お姉さん、どこか怪我したりは?」
その問いにはっとしたように後ろを振り向き、話しかける。
「あっ、あっと、お姉ちゃん、どう?どこか痛い?」
それに対し、答えは力なく首を振るだけのものだった。
妹である、マーヤの顔色がかげるが、今はまだそこまで気遣う気力が本人にないのだろう。
咎なきことで、無体なことをされたのだ。
気の毒に思うが、瀬戸際で未然に防げたのは幸いだったのかもしれん。
そう思い、サーラ殿を見れば、少し腰をかがめ、マーヤといった少女に話かけていた。
「見たところ怪我はなさそうだけど。お姉さん大分疲れてるみたいだ。 これあげるよ。」
外套から小袋を出し、手を添えて、少女の手のひらに乗せる。
「あたたかい白湯と一緒に今日、寝る前に飲んでもらって。」
「これは…?」
「ああ、俺、薬師なんだよ。これは気分を鎮めて、よく眠れるようにする薬。」
「お、お薬おいくらですかっ?」
少女の声が裏返る。
無理もない。いくら皇都とはいえ、薬の類は高い。
そう思いながら、サーラ殿の見やれば、
「あー…よかったら、ここいらで飯が美味い宿ってある?そこを紹介して欲しいな。その情報料が薬の値段。」
きょとんとした顔のまま、少女が口を動かす。
「え? えっと、それだけですか?」
「うん。そうだなぁ――薬の効き目があったら、街の人達に噂でも広めといてよ。しばらく皇都にいるつもりだから。」
ぽんぽんと少女の頭を撫でて、話している姿からは彼の思いが見える気がした。
少女もそれを感じたのだろうか。
手のひらの袋をきゅっと握り締め、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はいっ!! お宿ですが、白の仔馬亭っていう宿屋があるんです!そこのお店の煮込み料理は、とっても美味しいんですよ!」
「へぇ、いいね。じゃ、今夜はそこにしよう。―――てことで、団長。白の仔馬亭に泊まってるよ。朝はそこに迎えに来てくれ。」
あっさり、そう言う。
「…は、了解しました。」
実を言えば、身辺上の警備から、宿を考えていたのだが、彼の場合は必要なかろう。
この大立ち回りを見た上で、突っかかっていくバカはいまい。
――なんだか、振り回されるのに慣れてきてしまっている自分が嫌だ。
つかわれている感が否めないのに。
あの人の所為で、既にそういう体質になってしまったのか?
このままいけば、あの時の二の舞……。
悲観的な考えを、脳内で振り払う。
(朝になったら、すぐにでも皇宮に行って、上司に彼を預ける。絶対、そうする。)
マーヤという少女に案内され、さくさく歩く彼の背中を見つめながら、そんなことを決意したのだった。