婚約破棄で滅んだ王国
王国の若き国王アレンは頭を抱えていた。今国内で疫病が流行っていて、国民が次々に死んでいるのだ。アレンの父である先代国王もこの病で死んだ。
その病状は、赤い発疹ができ、それが全身に広がって、激しい頭痛と発熱で苦しみぬいたのちに死ぬ。
「どうしたらいいんだ。国民が次々に死んでいるのに打つ手が何もない」とアレンはひとりごちた。
するとアレンに面会者が現れた。それは若くて美しい女性で、自分なら疫病を治せると言ったのだ。彼女の名はラツーダと言った。
アレンは藁にもすがりたい気持ちだったので、疫病を治してくれるのならばどんなものでも与えるとラツーダに約束した。
「見返りはいりません」とラツーダは言った。「私は人々を救いたいのです」
アレンは王宮の研究施設を自由に使っていいと言った。すでにこの国の研究者たちはさじを投げていたのだ。
ラツーダは王宮の施設で疫病の研究をはじめた。彼女はこの国の研究者たちが舌を巻くほどの医療の知識を持っていた。研究には長い時間がかかった。
その間に、アレンはラツーダにひかれていった。そして結婚を申し込んだ。
「どうか僕と結婚してくれ」とアレンは言った。
「今はダメです。けど、無事ワクチンが完成したら、私はあなたと結婚します」
ふたりは婚約した。
それから半年後に、ついにワクチンが完成した。そのころにはすでに国民の4人にひとりが疫病で死に、国はかろうじて機能しているという状態だった。
ワクチンはただちに人々に投与され、それは疫病に効果的であった。疫病は王国から駆逐された。
「よくやってくれたラツーダ」とアレンは言った。
「さあ、これで私たちは結婚できます」とラツーダは言った。
しかしアレンは急に苦悶の表情になった。
「そのことだが、お前に謝らなくてはいけないんだ」
「え? なんですか?」
「お前がこの半年間研究に没頭している間に、僕はほかに好きな女ができてしまった。そしてその女と結婚の約束をしてしまったのだ」
「そんな・・・約束が違います」
「だからこうして謝っているんだ」
「ほかに好きな人ができたなら、なぜそのことを早く言ってくれなかったのですか?」
「それを言ってしまったら、君が研究を途中でやめてしまうと思ったからだよ。わかってくれ、僕は国王であり、国民を救う義務があるんだ」
「そうですか、わかりました。では私はもうこの国から去ります」
「ワクチンを作ってくれた報酬を払う」
「最初に言いました。見返りはいらない、と」
ラツーダは何も報酬を受け取らず王国から姿を消した。
アレンはほっと胸をなでおろした。
国民を疫病から守ったということで、アレンの名声は上がった。人々はアレンに感謝し、称賛した。
そんな中で結婚式が開かれることになった。
「国民たちよ、我々はつらい時期を乗り越えたのだ。これからこの王国は大いに繫栄するだろう」と、結婚の式典でアレンは演説をした。
彼の横には白いドレスを着た王妃がいた。栗色の髪で大きな瞳をした、愛くるしい女性だった。
アレンの演説中、彼女はしきりに首筋を掻いていた。
演説を終えて王妃を見たアレンはギョッとした。王妃の首筋に赤い発疹ができていたのだ。
すぐにワクチンを投与したが、なぜかまったく効果はなかった。発疹は全身に広がり、激しい発熱と頭痛が始まった。
「なぜだ!? なぜワクチンがきかない!?」
かつてラツーダと共にワクチンの研究をしていた医者は、王妃の状態を見て、「これは変異種です」と言った。
「変異種? ワクチンがきかないのか?」とアレンは尋ねた。
「これまでのワクチンは効きません。新しいワクチンの開発をする必要があります」
ラツーダがいない状態での新しいワクチンの開発は遅々として進まなかった。
やはりワクチン開発にはラツーダの力が必要なのだ。
アランは全力を挙げて彼女のゆくえを探させた。
しかしすでに彼女はどこにも居なかった。王妃は日に日に衰弱していき、苦しみぬいた末に死んだ。
最期まで王妃に寄り添っていたアレンの首筋にも赤い発疹ができ始めた。
彼はそれを見て絶望し、自分の死を覚悟した。
変異種は瞬く間に広がり、国民の半数以上が死んで、国は完全に機能しなくなった。
アレンの死後、王位を継ぐ者は誰もいなかった。
そして数年後、王国は巨大な廃墟と化していた。




