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【TS転生スローライフ】孤独な傭兵から転生したら、両親から溺愛されるとっても幸せなスローライフ少女になれました!  作者: 藍埜佑


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第32話「小さな知恵で大きな恵み」

 真夏の太陽が容赦なく照りつける中、グリーンヴェイル村の畑では、干からびた土が風に舞い上がっていた。リリィは、両手で日よけを作りながら、しおれかけた野菜たちを心配そうに見つめていた。


「パパ、このままじゃお野菜さんたち、のどが渇いちゃう……」


 リリィの声には深い憂いが滲んでいた。

 テラは額の汗を拭いながら、重々しく頷いた。


「そうだな。水やりも大変だし、井戸の水も底をつきそうだ」


 その言葉を聞いたリリィの瞳に、突然閃きが宿った。

 遠い記憶の中から、ある光景が蘇ってきたのだ。


「あっ! パパ、いいこと思いついた!」


 リリィは小さな手を挙げて、嬉しそうに飛び跳ねた。


「どんなことだい?」


 テラは優しく微笑みながら尋ねた。


「屋根から落ちてくる雨水を、大きな樽で集めるの。そうすれば、雨が降った時にたくさんのお水が集められるよ」


 テラは驚いた表情でリリィを見つめた。


「それは面白いアイデアだね。でも、どうやって集めるんだい?」


 リリィは真剣な表情で説明を始めた。


「屋根の端っこに、細長い樋をつけるの。そこから水を導いて、大きな樽に落とすんだよ。雨が降ったら、自然とお水が集まるの」


 テラは感心したように頷いた。


「なるほど。リリィ、それはとてもいいアイデアだ。さっそく作ってみよう」


 その日の午後、テラとリリィは早速作業に取り掛かった。古い木材を使って樋を作り、屋根の端に取り付ける。大きな樽は、村の酒屋さんから譲ってもらった。


 リリィは小さな体で一生懸命に手伝い、時には的確な助言を父に送る。


「パパ、ここをもう少し傾けた方がいいよ。そうすれば、水がスムーズに流れると思うの」


 テラは娘の聡明さに感心しながら、アドバイスに従った。


 作業を終えた頃、空模様が怪しくなってきた。重そうな雲が村の上空に集まり始めたのだ。


「わあ、雨が降りそう!」


 リリィは空を見上げて歓声を上げた。


 そして、まるで天の配剤であるかのように、大粒の雨が降り始めた。

 屋根を伝った雨水が、新しく設置した樋を通って樽へと流れ込んでいく。


「見て、パパ! うまくいってる!」


 リリィは目を輝かせながら、満たされていく樽を指差した。

 テラも誇らしげな表情で、娘の肩に手を置いた。


 雨が上がると、樽には見事なまでに雨水が溜まっていた。リリィは両手を叩いて喜んだ。


「わあ、こんなにたくさん集まったよ!」


 テラは優しく微笑みながら、リリィの頭を撫でた。


「リリィのおかげだよ。この水で、畑の野菜たちものどの渇きが潤せるね」


 翌朝、リリィは早起きして、集めた雨水で畑の水やりを始めた。小さなジョウロに雨水を注ぎ、丁寧に野菜の根元にかけていく。水を吸った土の香りが、朝もやの中に立ち込めた。


「お水、たくさん飲んでね。大きくなってね」


 リリィは野菜たち一つ一つに優しく語りかけながら、水やりを続けた。


 その光景を見ていたフローラが、感心したように声をかけた。


「リリィ、あなたのアイデアのおかげで、大切な水を無駄にせずに済むわ。本当に賢い考えね」


 リリィは照れくさそうに頬を染めた。


「ありがとう、ママ。でも、これはみんなのおかげだよ。パパが作ってくれたし、雨も降ってくれたし……」


 その日の午後、近所の人たちが珍しそうに雨水収集システムを見に来た。


「へぇ、こんな方法があったのか。これなら、うちでも真似できそうだね」


 近所のおじさんが感心した様子で言った。


 リリィは嬉しそうに説明を始めた。


「うん! 屋根から落ちる雨水を無駄にしないで、大切に使うの。お野菜さんたちも喜んでるよ」


 村人たちは、リリィの熱心な説明に耳を傾けながら、頷いていた。


「リリィちゃん、本当に賢いねぇ。こんなすごいアイデアを思いつくなんて」


 褒められて照れるリリィだったが、同時に心の中で誇らしさも感じていた。前世の知識が、今を生きる人々の役に立つ。その喜びが、リリィの小さな胸を温かく満たしていった。


 その後、村のあちこちで同じような雨水収集システムが見られるようになった。リリィのアイデアは、干ばつに悩む村全体を救う一助となったのだ。


 畑を見渡しながら、リリィは静かにつぶやいた。


「水って、本当に大切なんだね。でも、みんなで知恵を出し合えば、きっとなんでも乗り越えられる」


 夕暮れ時、畑に立つリリィの周りで、生き生きとした野菜たちが風に揺れていた。その姿は、まるで小さな少女の知恵と思いやりに感謝しているかのようだった。


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