第31話「実りの喜び、感謝の味」
真夏の太陽が、グリーンヴェイル村の畑を黄金色に染め上げる8月の朝。
リリィは、両親と共に今日の収穫作業に胸を躍らせていた。可愛らしい麦わら帽子を被り、小さな籠を手に、畑へと向かう彼女の瞳は、期待に満ちて輝いていた。
「パパ、ママ、今日はどの野菜から収穫するの?」
リリィの澄んだ声が、朝もやの中に響く。
テラは優しく微笑んで答えた。
「そうだな、まずはトマトからかな。真っ赤に熟したやつを見つけられるかな?」
フローラも頷きながら付け加えた。
「その後はナス、ピーマン、最後にトウモロコシよ。リリィ、たくさん手伝ってくれるかしら?」
リリィは嬉しそうに飛び跳ねながら応えた。
「うん! 頑張る! たくさん収穫して、美味しいバーベキューにするんだよね?」
両親は娘の無邪気な笑顔に、心を温められる思いだった。
畑に着くと、リリィは早速トマトの株に駆け寄った。
真っ赤に熟したトマトを見つけると、両手で優しく包み込むように摘み取る。
時折、小さな手では届かない場所にあるトマトを見つけると、父親に抱き上げてもらって収穫するのだった。
「わぁ! このトマト、お日様みたい!」
リリィの歓声に、テラもフローラも思わず顔を見合わせて微笑んだ。
次はナスの収穫。
つやつやと光る紫色の実を見つけては、慎重に収穫していく。
ピーマンは鮮やかな緑色が目印だ。
リリィは真剣な表情で、一つ一つ丁寧に摘み取っていった。
最後はトウモロコシだ。
背の高い株に囲まれたリリィは、まるで迷路にいるかのようだった。
「パパ、ここにあったよ! でも、どうやって取るの?」
テラは娘の隣にしゃがみ込み、優しく教えた。
「よく見てごらん。このヒゲが茶色くなっているのが収穫の目安だよ。ぐいっと下に曲げて、くるっと回すんだ」
リリィは父の指示に従って、小さな手で懸命にトウモロコシを収穫する。
最初は苦戦したが、コツを掴むと次々と収穫できるようになった。
収穫を終えた一家は、たわわに実った野菜たちを前に、自然の恵みへの感謝の気持ちを込めて手を合わせた。
「いつも美味しい野菜をありがとう。大地の恵み、太陽の光、雨、そして私たちの愛情が、こんなにたくさんの実りをもたらしてくれたんだわ」
フローラの言葉に、リリィも小さな手を合わせて頷いた。
「ありがとう、野菜たち。みんなで美味しくいただきます!」
リリィの無邪気な感謝の言葉に、両親は思わず笑みがこぼれた。
収穫した野菜を大切に籠に詰め、一家は森の中にあるログハウス「みんなの夢の家」へと向かった。
道中、リリィは両親に次々と質問を投げかける。
「ねえねえ、トマトってどうしてあんなに赤くなるの?」
「太陽の光をたくさん浴びて、栄養をいっぱい蓄えるからよ」とフローラが答えると、リリィは目を輝かせた。
「じゃあ、トマトはお日様の子どもみたいだね!」
その可愛らしい発想に、両親は思わず顔を見合わせて微笑んだ。
ログハウスに到着すると、テラは準備していたお肉を取り出し、バーベキューの用意を始めた。リリィは両親の手伝いをしながら、ワクワクした様子で辺りを見回す。
「あっ! ムーンとサニーも来てたんだ!」
リリィの声に反応して、二匹の犬が駆け寄ってきた。
リリィは嬉しそうに両腕を広げ、彼らを迎え入れる。
「おいで、おいで! 今日はみんなでバーベキューするんだよ」
ムーンは落ち着いた様子でリリィの頭を優しく舐め、サニーは興奮気味に尻尾を振りながらリリィの周りをぐるぐると回っている。
テラがバーベキューコンロに火をつけると、リリィは好奇心いっぱいの目で見つめた。
「わぁ、火が踊ってるみたい!」
フローラはリリィの横に座り、優しく諭した。
「火は危ないから、あまり近づかないでね」
リリィは真剣な表情で頷いた。
「うん、わかった。でも、お手伝いはしていい?」
「もちろんよ。じゃあ、ママと一緒に野菜を切ってみる?」
リリィは嬉しそうに小さな包丁を手に取り、フローラの指導のもと、慎重に野菜を切り始めた。その真剣な表情が、年齢以上に賢く見える。
「ママ、こんな感じでいい?」
「とってもいいわ、リリィ。上手に切れているわね」
褒められてリリィの頬が赤く染まる。その姿があまりにも愛らしく、フローラは思わず娘を抱きしめたくなった。
やがて、バーベキューの煙が立ち昇り、肉の香ばしい匂いが辺りに広がった。テラが焼き上がった肉を皿に盛り付けると、リリィは目を輝かせた。
「わぁ、いい匂い! 早く食べたいな」
家族3人とムーン、サニーを含めた5匹が、テーブルを囲んだ。リリィは両手を合わせ、元気よく言った。
「いただきます!」
最初の一口を頬張ったリリィは、幸せそうな表情を浮かべた。
「美味しい! お肉も野菜も、全部美味しいよ!」
テラとフローラは娘の無邪気な喜びに心を温められ、穏やかな笑顔を交わした。
「そうだね。みんなで育てた野菜だからね、一層美味しく感じるんだ」とテラ。
「自然の恵みと、家族の愛情が詰まった特別な味ね」とフローラが付け加えた。
リリィは両親の言葉に深く頷き、また一口を頬張った。
その瞬間、彼女の頬にトマトの汁が付き、赤く染まる。
「あら、リリィ。口の周りがトマトでいっぱいよ」
フローラがそう言って笑うと、リリィも大きな声で笑った。
その笑い声が、森の中に響き渡る。
ムーンとサニーも、リリィたちの様子を見守りながら、与えられた食事を楽しんでいた。時折、リリィが二匹に優しく話しかける。
「ムーン、サニー、美味しい? みんなで食べるといっぱいいっぱい美味しいね!」
夕暮れ時、空が茜色に染まり始めた頃、満足そうな表情のリリィは両親に寄り添った。
「パパ、ママ、今日はとっても楽しかった。また明日も畑仕事、頑張るね」
その言葉に、テラとフローラは娘の頭を優しく撫でた。リリィの目は、夕陽のように輝いていた。幸せな時間が流れる中、家族の絆がさらに深まったのを感じつつ、彼らは静かに夕暮れを眺めるのだった。




