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【TS転生スローライフ】孤独な傭兵から転生したら、両親から溺愛されるとっても幸せなスローライフ少女になれました!  作者: 藍埜佑


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第25話「家族旅行、わくわくの出発」

 真夏の太陽が燦々と照りつける朝、リリィの家は普段にない活気に包まれていました。今日から三日間、ブルームフィールド家初の家族旅行に出発するのです。


「リリィ、準備はできた?」


 フローラの声が2階に響きます。


「はーい! 今行くよ!」


 リリィは小さなリュックを背負い、階段を駆け降りてきました。


「わぁ! パパ、ママ、ムーン、サニー、みんな待ってたの?」


 リビングには、両親とともに、旅行に同行する二匹の愛犬、ボーダーコリーのムーンとウェルシュコーギーのサニーが待っていました。


「そうだよ。家族みんなで出発しようと思ってね」


 テラが優しく微笑みかけます。


「えへへ、嬉しい!」


 リリィは飛び跳ねるように喜びました。


 荷物を馬車に積み込み、いよいよ出発です。

 リリィは荷台の真ん中に座り、両脇にムーンとサニーが寝そべります。


「よーし、出発するぞー!」


 テラの掛け声とともに、馬車は動き出しました。


「ねえねえ、パパ。今日泊まるホテルはどんなところなの?」


 リリィは目をキラキラさせながら尋ねます。


「そうだな。山の中にある素敵で古風なリゾートホテルだよ。温泉もあるし、広い庭もあるんだ」


「わぁ! 楽しみ!」


 リリィは両手を挙げて喜びました。ムーンとサニーも、その様子を見て尻尾を振ります。


 馬車は村を出て、広々とした田園地帯を走り始めました。窓の外には、緑豊かな田んぼや畑が広がっています。


「ほら、リリィ。ヒマワリ畑があるわ」


 フローラが指さす方向に、黄色い花が一面に咲き誇っていました。


「すごーい! きれい!」


 リリィは身を乗り出して、ヒマワリ畑を眺めました。


 しばらく走ると、道は少しずつ山道へと変わっていきます。木々が生い茂る中を、馬車はゆっくりと進んでいきました。


「あ! リスさん見つけた!」


 リリィが突然声を上げます。木の枝から枝へと飛び移る小さなリスの姿が見えました。


「本当だ。よく見つけたね、リリィ」


 テラが感心したように言いました。


 馬車の上ではリリィの楽しそうな声が絶えません。

 時折、ムーンとサニーが鳴いて、リリィの発見を祝福するかのようでした。


 お昼頃、ブルームフィールド家の一行は山頂近くの展望台で休憩することにしました。蛇行する山道を登りきると、広々とした展望台が姿を現します。馬車から降りた瞬間、爽やかな風が一家を包み込みました。


「わぁ、気持ちいい!」


 リリィは両手を大きく広げ、深呼吸をしました。澄んだ空気が肺いっぱいに広がり、日常の喧騒を忘れさせてくれます。頬をなでる風は、平地とは比べものにならないほど涼しく、真夏だということを忘れそうになるほどでした。


 展望台からは360度の大パノラマが広がっています。眼下には、鮮やかな緑のじゅうたんを敷き詰めたかのような森が果てしなく続いています。木々の緑は、近くは濃く、遠くになるにつれて薄くなり、霞んだ山々とのグラデーションを作り出しています。


「ほら、リリィ。あそこを見てごらん」


 フローラが指さす方向に目を向けると、リリィの目は驚きで丸くなりました。

 遥か下方に、V字型に切り開かれた深い谷が見えたのです。谷底には蛇行する川が、細い銀色のリボンのように輝いています。陽光を受けて、水面がキラキラと煌めき、まるで宝石をちりばめたかのようです。


「すごい! 山の上から見る景色って、こんなにきれいなんだね」


 リリィは感動して言いました。

 その瞳には、広大な自然の景観が映し出されています。


 谷を囲むように連なる山々は、それぞれが個性的な形をしています。ある山は鋭くとがった峰を持ち、またある山は緩やかな起伏を描いています。山肌には、所々に露出した岩肌が灰色や茶色の斑点のように見え、自然の造形美を際立たせています。


 空は、抜けるような青さで、ところどころに浮かぶ白い雲が、まるで綿菓子のようです。雲の影が地上を這うように動き、風景に動きを与えています。


 遠くの方では、鷹らしき大きな鳥が悠々と空を舞っています。その姿は、大自然の中での人間の小ささを感じさせると同時に、この雄大な景色の一部となっているようでもありました。


 リリィは、目の前に広がる絶景に圧倒されながらも、心が洗われるような清々しさを感じていました。村では決して味わえない、自然の雄大さと美しさが、彼女の心に深く刻み込まれていきます。


「パパ、ママ、あたしここにずっといたいな」

「ふふふ、ホテルには行かなくていいの? リリィ?」


 リリィの無邪気な一言に、テラとフローラは優しく微笑みました。

 家族で共有するこの瞬間が、かけがえのない思い出になることを、二人は確信していました。


 ムーンとサニーも、人間たちに負けじと景色を楽しんでいるようです。特にムーンは、遠くを見つめる姿勢で立ち、まるで全てを見守る番人で哲学者のようでした。


 風に乗って、かすかに野の花の香りが漂ってきます。リリィは目を閉じ、この瞬間の全てを感覚で捉えようとしました。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、全ての感覚が研ぎ澄まされ、この場所、この瞬間の美しさを余すところなく吸収していきます。


 山頂の展望台で過ごしたこのひととき。それは、リリィの人生の中でも特別な思い出として、いつまでも色褪せることなく輝き続けることでしょう。


 昼食は、フローラが用意したお弁当です。

 展望台のベンチに座って、みんなで楽しくいただきました。


「ママのお弁当、最高!」


 リリィは口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら言います。


「ありがとう、リリィ。嬉しいわ」


 フローラが優しく微笑みました。


 食事を終え、再び馬車に乗り込みます。お腹いっぱいになったリリィは、少し眠くなってきました。


「リリィ、少し昼寝してもいいよ。ホテルに着いたら起こすからね」


 テラが後ろを振り返って言います。


「うん…….」


 リリィはうとうとしながら返事をしました。

 ムーンとサニーも、リリィの両脇で丸くなって眠り始めます。


 馬車は静かに山道を進んでいきます。

 窓の外では、木々が優しく揺れ、小鳥のさえずりが聞こえてきます。リリィの顔には、幸せそうな寝顔が浮かんでいました。


 この家族旅行は、まだ始まったばかり。

 これからどんな素敵な思い出が待っているのでしょうか。リリィの冒険は、まだまだ続きます。


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