第68話「レースのカーテン、光の舞踏会」
二月の午後、雪が静かに降り始めた頃、リリィは家の中で本を読んでいた。そんな時、エマとミカが訪ねてきた。エマの金色の巻き毛は少し乱れ、頬は寒さで桜色に染まっている。ミカの黒い髪には、小さな雪の結晶が宝石のように輝いていた。
「リリィちゃーん! 一緒に遊ぼう!」
エマの声は、いつもの様に明るく弾んでいた。
「今日は寒いから、お家の中で遊びたいの」
ミカが、長い黒髪を指先でくるくると巻きながら話す。その仕草に、リリィは少し見とれてしまう。前世では絶対に気付かなかった、女の子特有の可愛らしい仕草。
「いいよ! でも、何して遊ぶの?」
リリィが尋ねると、エマとミカは意味ありげな笑顔を交わした。
「お姫様ごっこ! 見て、これ!」
エマは、持っていた籠からリボンやレースの切れ端、小さなティアラを取り出した。ミカのお母さんの洋裁店からもらってきたものらしい。
「あ、でも……」
リリィは少し躊躇う。そんな女の子らしい遊びは、実はまだ慣れなていない。でも、エマが柔らかな手でリリィの手を取った。
「大丈夫だよ。きっと楽しいよ!」
エマの手の温もりが、リリィの心の壁を少しずつ溶かしていく。
「ねえ、このレースのカーテン、素敵じゃない?」
ミカが窓辺のレースカーテンを手に取り、身にまとう。陽の光に透かされたレースが、まるで天使の羽のような影を作る。
「わあ……」
リリィは思わず息を呑んだ。ミカの姿が、まるで童話から抜け出してきたお姫様のよう。
「リリィちゃんもやってみよう!」
エマが別のカーテンを持ってきて、リリィの肩にそっとかける。優しい手つきで、リリィの茶色の髪を整え、小さなティアラを載せる。
「うわぁ、リリィちゃん可愛い!」
ミカが手を叩いて喜ぶ。鏡に映ったリリィの姿は、いつもと少し違って見えた。レースのドレスに身を包んだ少女が、はにかみながら微笑んでいる。
「私も、私も!」
エマも急いでカーテンを羽織る。金色の巻き毛がレースと重なって、まるで太陽の光のよう。
「まるで、本当のお姫様みたい……」
リリィの呟きに、エマとミカは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、舞踏会を始めましょう!」
ミカが立ち上がり、エマの手を取る。二人が優雅に踊り始めると、レースのドレスが光の中で揺れる。リリィは、その姿に魅せられた。女の子の柔らかな動き、はじけるような笑顔、優しい手の触れ合い。全てが新鮮で、心が温かく膨らんでいく。
「リリィちゃんも一緒に!」
エマがクルッと回りながら、リリィの手を取った。三人で輪になって踊る。不慣れな足取りも、友達の笑顔に導かれて自然と軽やかになっていく。
「あ、リリィちゃんの髪、解けてきちゃった」
ミカが踊りを止めて、リリィの後ろに回る。細い指で優しく髪を整え、小さなリボンで結んでくれた。
「ミカちゃんって、上手だね」
「ふふ、毎日お母さんのお店で見てるから。リリィちゃんの髪、すごく綺麗なの。触ってるだけで気持ちいい」
ミカの言葉に、リリィは頬が熱くなるのを感じた。
そうして三人は、夕暮れまで踊り続けた。レースのカーテンが作る影が、壁に映る。それはまるで、もう一つの世界の入り口のよう。
「ねえ、また一緒に踊ろうね」
エマの言葉に、リリィは心から頷いた。
「うん! 今日は、本当に楽しかった」
帰り際、三人は互いの頬にそっとキスを交わした。エマの柔らかな髪が、リリィの頬をくすぐる。ミカの細い指が、やさしく肩に触れる。
その夜、リリィはベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。レースのドレス、手を取り合って踊った時の温もり、友達の可愛らしい仕草や笑顔。全てが宝物のように心に刻まれていく。
(女の子って、こんなに素敵なんだね)
窓の外では、雪がまだ静かに降り続いていた。レースのカーテンに映る雪の影が、まるで小さな妖精のダンスのよう。リリィは幸せな気持ちで、静かに目を閉じた。




