第97話「村長先生の星物語」
六月の陽射しが和らぎ始めた午後、リリィは村役場を訪れていた。夏至祭の準備で忙しそうにしている村長のアルドゥスの姿が、古い木製の机の向こうに見える。白髪交じりの髭を時折撫でながら、書類の山と格闘しているようだった。
「村長先生、お手伝いできることありますか?」
リリィの声に、アルドゥスは優しい目をしわを寄せながら向けた。
「おや、リリィかね。ちょうど良かった。この古い文書の整理を手伝ってくれないかな」
机の上には、年月を重ねた羊皮紙や古びた書類が山積みになっている。リリィは慎重に腰掛け、一枚一枚丁寧に埃を払い始めた。
「これは何の文書なんですか?」
「夏至祭の記録だよ。我が村の歴史は、星々と共にあったんだ」
アルドゥスは椅子の背もたれに寄りかかり、懐かしむような表情を浮かべる。
二人で文書を整理していく中、一枚の古い星図が現れた。色あせた羊皮紙には、繊細な線で星座が描かれ、独特な文字で注釈が記されている。
「あっ! これ、北斗七星ですよね?」
「よく分かったね。昔の村人たちは、この星を道しるべにしていたんだ。特に、夏至の夜は神秘的な力を持つと信じられていてね」
アルドゥスは立ち上がり、窓際まで歩いた。夕暮れが近づき、空が少しずつ紫がかり始めている。
「実はね、リリィ。今夜、とても珍しい星の並びが見られるんだ。一緒に見に行かないかい?」
リリィの緑色の瞳が輝いた。両親に許可をもらい、夜にアルドゥスと再会する約束をする。
夜、村はずれの小高い丘の上で、リリィはアルドゥスを待っていた。満天の星空が、まるで黒いビロードのカーテンに宝石を散りばめたかのように広がっている。
「さあ、あの星を見てごらん」
アルドゥスが指さす方向には、七つの星が特別な輝きを放っていた。
「むかし、この村が大きな干ばつに見舞われた時があってね。村人たちは星々に祈りを捧げ、そして北斗七星に導かれて新しい水源を見つけたんだ」
リリィは息を呑んで聞き入る。アルドゥスは続けた。
「それ以来、私たちは星々への感謝を込めて、夏至祭を行うようになった。星は私たちに希望を与えてくれる。そして、次の世代へと導いてくれるんだ」
「村長先生、わたしも星のことをもっと知りたいです」
リリィの純粋な願いに、アルドゥスは温かく微笑んだ。
「そうだね。実は村の図書館には、星についての古い本がたくさんあるんだ。今度一緒に勉強してみないかい?」
リリィは嬉しそうに頷いた。星空の下で交わされた約束は、新しい学びの始まりを告げていた。
帰り道、アルドゥスはリリィに一枚の古い星図を手渡した。
「これは私が子供の頃に使っていたものだ。きっと、君の役に立つはずだよ」
リリィは大切そうに星図を胸に抱く。月明かりに照らされた二人の影は、まるで星座のように並んで丘を下りていった。その夜、リリィは星々への新しい物語を胸に、幸せな夢を見た。




