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13)死の仕掛け

本日は2話同時に投稿いたしました。こちらは2話目です。



 今日は皇宮の広間に数十人の貴族らが集められた。

 偽と判明した貴族らだ。まだ彼らには薬のことを話してはいない。逃げられないよう、伴侶らに納得してもらえるように暴露しなければならない。

 あれから二か月が過ぎていた。

 オリハもこの場にいた。リレイシャ妃が偽魔力持ちであることを糾弾するために王族が並んだ。

 陛下もおられるために護衛は大量にいる。非常に物々しい雰囲気だ。

 法務部の大臣と補佐官、宰相と宰相夫人、それにジュライアの姿もある。

「よく集まってくれた」

 法務部大臣が挨拶をする。

 陛下は奥の座におられ、参加者の一人のような佇まいでいる。周囲には近衛が詰めていた。

 カイムとオリハは陛下の少し間をおいた右隣の席に着いている。クレイル殿下は同じく少々離れて左隣だ。リレイシャ妃も側にいた。

「本日は我が帝国内に起きつつある問題を解決させるためにこの座を設けさせてもらった」

 大臣の言葉に室内がざわつく。

 ここで大臣の補佐官が説明役を代わり「悪用されると多大な悪影響を及ぼす薬」についての詳細と「偽魔力持ちを偽造する薬」が出回りつつあり「今現在は判定薬があるために服用している者はすぐにわかる」という話までを語った。

「試験をした様子を見ていただきましょう」

 補佐官は部下に合図を送り、映写用の幕が用意された。

 銀幕に八人の捜査官と捜査本部関係者の姿が現れ、自己紹介が始まった。偽の魔力持ち役四人と本物の魔力持ち四人、合わせて八人だ。

 偽魔力持ち役たちは自分は魔力は低めであること、これから偽魔力持ち薬を飲むことを自ら語り、薬を飲む様子も映された。

 動画は会議室に場面が変わる。十人の判定役が、被験者たちの向かいに座らされる。判定者と被験者の間には細い長机が置かれている。

 席を移りながら誰が偽魔力持ちかを確認するが、分かる者はいなかった。皆、首を傾げている。

 魔力の鑑定も行われたが、八人とも高い魔力であることを示した。

 次いで、判定役たちは判定薬を飲む。早送りで十五分ほど薬の説明などを受けながら時間をおき、再度被験者たちと対峙する。

「うわ」と判定薬を飲んだ一人が声をあげた。

「異臭がする」と口々に言いながら、偽魔力持ちたちを当てている。

「間違いようがない。偽の魔力持ちはなんとも言い難い匂いだ」

 捜査官の言葉で動画が終わった。

 補佐官は「これから、皆様には判定薬を飲んでいただきます」と無慈悲に告げた。

 再度、室内がざわめく。

「拒否はされないように」

 法務部大臣がさらに追い打ちをかけるように言うが、場のざわめきは収まらない。

「こんないきなり、だまし討ちのようなものは許容できませんわ」

 ジュライアが叫び立ち上がると、国王も立ち上がった。

「静まれ」

 陛下の一声に、しんっと静まった。

「私も薬を飲もう。受け入れるがいい」

 陛下が飲むというものを否定できる者は誰もいなかった。

 男性側全員に薬が行き渡る。

「誤魔化しはせんように」

 法務部大臣がにこやかに言い、近衛たちが見守る中で薬が飲まれていった。

「十五分くらいで効くのだな」

 自らも薬を飲んだ法務部大臣が薬師に尋ねている。

「多少の個人差がございますが、半数くらいのかたは十分くらいで効き始めるようです」

 カイムが落ち着かない様子でなぜかオリハの髪を撫でた。

「わ、私、少し体調が」

 ジュライアがなにか言っている。

 近衛が出入り口を固め、ジュライアに答える者は誰もいない。

 オリハの視線の端にリレイシャの人形のように綺麗な顔がちらりと見える。本当に人形のように肌が青白かった。

 嵐の前の静けさめいた一時が過ぎるうちに室内が再度、ざわめき始めた。

「ば、馬鹿な、そんな」

「なぜこんな匂いが」

「おい、この匂いはなんだ」

 判定薬を飲んだ者たちが気付き始めた。

 隣の伴侶たちは一様に項垂れている。

「どういうことだ」

「つまり、あなた方の伴侶は魔力持ちではなかった、ということです」

 補佐官の言葉が冷たく響く。

「し、しかし、妻は私の子を産んでいる!」

「本当にあなたの子か確かめることをお勧めする」

 大臣が無慈悲に告げると男はがくりと椅子に座り込んだ。

 オリハはクレイル皇子に視線を向ける勇気はなかった。


 衝撃の結末から一月が過ぎるころ。

 クレイル皇子はリレイシャ妃を咎めないと決めた。明らかな詐欺で大罪だというのに、そのまま夫婦生活を続けるという。

 クレイルは「兄上の子が生まれているのだから問題はないでしょう」と清々しいまでに言い切った。

 とはいえ、リレイシャ妃の実家の権威は地に落ちた。もうクレイル皇子を傀儡にすることはできないだろう。

 婚姻時の詐称が明らかなので、リレイシャの実家ルガリエ侯爵家は准男爵家にまで落とされ次の世代は平民だ。クレイル皇子の妻の実家ゆえに、無理に爵位を残しておいた、という形だ。

 ルガリエ家は王家に巨額の賠償金を払わされたため、もはや破産状態だ。詐称も公にされた。

 他の偽魔力持ちたちは離縁された者が多かった。生まれた子も托卵が確認された。偽魔力持ちが当主の子を産んだ例は一つもなかった。

 離婚はされなくとも第二夫人に落とされた者は多く、正妻のままで済んだのはリレイシャだけだった。

 帝国を揺るがす大騒動となった。


 オリハとカイムが産後に夫婦生活を元に戻し二か月後、第二子の妊娠が確認された。

「妊娠、しやすいのかしら」

 オリハはまだ小さい自分の腹を撫でながらぽつりと呟く。

 まさかこんなに早く妊娠するとは思わなかった。体が復活したばかりでは無理だろうと思っていたからだ。

「こんなに早くに大丈夫だろうか。避妊すれば良かったか。私のオリハだというのに。また妻を子に取られるのか」

「カイム、不安定になってるわ」

 オリハはカイムの髪や背中を「落ち着いて」と撫でた。子供のように文句を言うカイムを咎める気も起きない。

 周りの侍女や侍従は可哀想なものを見る目や非難する目で皇太子を見ているが、母性本能がやたら高まっているオリハは夫にも甘かった。

「また安産だといいのだが」

「安産よ、大丈夫。難産になる気がぜんぜんしないの」

 オリハはにこりと微笑んだ。

「それならいいが。オリハが言うからそうなんだろうけど」

「名前をまた考えないとね」

「今度は父上にも聞きたいところだ。フロランのときは、父は『お前たちで付けなさい』と言っていたが」

「女の子の名は案があったみたい。後から聞いた話だけど。女の子ならユスティと考えてたとお父様は仰ってたわ。でも、男の子でも大丈夫な名前よね」

「いつの間にか父上と仲良しになってるんだな」

 なぜかカイムは嫌そうな顔をしている。

「私がしつこく聞いたから」

「オリハはしつこくなどしていないだろう。私を仲間外れにして」

「仲間外れになんてしてないわ。側近のハイロフさんにお世話になったのでお礼に行って。たまたまよ」

「まぁ良い。では、ユスティで決まりだな、父上が名付け親なら、喜ばれるだろう」

「そうね」

 そんなほのぼのとした夫婦の会話ののち、名前は早々に決まった。


 安定期に入り、オリハはここ数日、触れていなかった竪琴を手に取ることにした。

 ベニータに言って竪琴を取ってきてもらう。

 オリハは治癒師が用意した薬草入りの茶を飲んだ。甘い香りのする茶だ。妊婦に良いという。ほっとする香りだ。

 ベニータはここのところ、オリハを気遣いすぎて疲れた顔をしている。オリハはもう安定期だ。そろそろいつもの彼女に戻ってほしいものだ。

「オリハ様、竪琴です」

 差し出された竪琴を手に取った。

「ありがとう」

 何を弾こうか、幾つかの曲を頭に浮かべながら、ふと奇妙な物音に気付く。

 カサカサというごく小さな音。

 嫌な音だ。

 オリハはこういう些細なことが気になるほうだ。子供のころ、体が弱かったからと言われている。弱い体を護るために神経質なたちになった。非力さを補うため、身を守るために。

 このとき働いたのは、そんな本能的なものだった。

 オリハは竪琴を取り落とした。

「どうされました」

 護衛がすぐさま反応した。

「竪琴に異音がする」

 オリハは竪琴から距離を取ろうとしてよろめき護衛の騎士に支えられた。

 カサカサという音がさらに聞こえてくる。気のせいではない。

 騎士が剣の柄で竪琴をひっくり返すと、竪琴からグロテスクな蜘蛛が出てきた。

「蜘蛛!」

 侍女が思わず声を上げる。

「殺すな、生け捕りにしろ」

「オリハ様、こちらへ!」

「オリハ様の警護を固めろ!」

 場がにわかに騒然とし、オリハは震える体を逞しい護衛の背と腕に庇われたまま成り行きを呆然と見守った。


 十分もしたころにカイムが私室に戻ってきた。

 慌てた様子で、額に汗が光っている。

「オリィ! 無事か」

「カイ」

 オリハはそのとき、寝室の寝台に横になっていた。お腹が張って、治癒師に診てもらっていた。

「オリハの容態は!」

 カイムが治癒師に問う。

「動揺しておられましたが、今は落ち着いていらっしゃいます。お体のほうは大丈夫です」

「どう大丈夫なのだ」

「カイ、下腹部の張りも治まったの。動揺して体が妙に震えたりしたんだけど、それも治ったわ」

「オリィ」

 カイムは寝台に歩み寄りオリハを抱きしめた。

「なんともないのだな」

「ええ、良かったわ、気付いて」

「すぐに調べる」

「近衛たちがやってくれてると思うわ。もっと抱きしめて」

「ああ、オリィ」

 オリハはカイムの耳元に囁いた。

「カイ、ベニータを保護して」

「オリィの侍女のベニータか」

「三日くらい前から様子が変だったの。彼女が見慣れない腕輪を着けたころから」

「見慣れない腕輪?」

「私の侍女や護衛たちは精神操作を受けないように魔導具を身に着けている。でも、ベニータは様子が変だった。彼女が持ってきた竪琴に蜘蛛が入っていた」

「あの女が」

「口封じされる可能性があるの。どこになにがあるかわからない」

「わかった」

 カイムの腕に力がこもった。


 二週間後。

 オリハは帝都の国教施設に佇んでいた。

 カイムが肩を抱いてくれる。

 若くして命を散らしたベニータの葬儀が行われた。

 オリハの暗殺未遂に加担した侍女と言われたが、ベニータは犯人一味に捕らえられ無理矢理、魔導具を仕込まれたことがわかっている。

 本当に悔しくて哀しいときには涙など出ないとオリハは知った。怒りでおかしくなりそうだった。

 ベニータは死んでしまった。保護は間に合わなかった。

 彼女を助ける方法がすぐには見つからなかった。ベニータの腕に填められた魔導具には被害者を殺す仕掛けが仕組まれていた。

 ベニータの体には幾つもの傷跡があった。捕らえられて魔導具を仕込まれて、強い暗示をかけられていた。毒蜘蛛をオリハの竪琴に仕掛けるためだった。

 オリハは出ない涙を無理に流した。カイムに願うために。

 番の涙に龍人の末裔は弱いとオリハは聞いた。

 元夫は龍人でもなんでもないが、ドミニクの流した涙に欺された。あんな根も葉もない大嘘をよくも信じた。そもそもあの男は驚くほど無能だった。

 カイムはあの男とは桁外れに優秀だけれど、龍人の先祖返りと言われている。夫にオリハは、番の涙を見せてあげた。

「ベニータの仇を討って」

 オリハの青水晶の瞳から涙が一筋、零れる。

「ああ、もちろんだ。オリハを殺そうとした輩を残らず肉片にしてやると誓う」

 カイムはオリハを抱きしめた。逞しい夫の胸にオリハは顔を埋めた。

 皇宮に帰ると、皇帝が待ってくれていた。

「カイム。オリハ」

 オリハは泣き濡れたままの顔で皇帝にお辞儀をする。

「体に差し障りのある礼はしなくて良い」

 皇帝クレオスはガラス細工を包み込むようにオリハを抱きしめた。




お読みいただきありがとうございました。

明日も、夜20時に投稿の予定です。

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