第2章 秘密を共有する夜
もしあなたが、誰かに秘密を打ち明けたとき、
その人は本当に自分を理解してくれると思いますか?
それとも、知られたことで関係が歪んでしまうかもしれないと、
どこかで恐れてはいませんか?
第2章では、凛たちが初めて互いの心の奥に触れます。
けれど、誰かを信じることが、同時に壊れるきっかけにもなる――
あなたなら、そのときどうしますか?
放課後の教室は、昼間のざわめきが嘘のように静かだった。
机の上には忘れ物が散らばり、外からの光が窓際の机だけを淡く照らしている。
凛は鞄を背負わず、そのまま席に座っていた。
優斗が教室に戻ってきたのは、他の部活の連中が帰ったあとだった。
彼の表情は昼間の笑顔とは違い、少しだけ影が差していた。
「なあ、凛。ちょっと付き合ってくれないか」
優斗は声を落とし、机に肘をついた。
凛は首を傾げ、少し戸惑いながらも頷いた。
二人は教室を出て、屋上に向かう。
そこは誰も来ない場所で、風が吹くたびに都会の雑踏が遠くなる。
「……家、どうなの?」
凛が問いかける。
優斗は少しだけ笑って、でも目は暗かった。
「……うちは、まぁ、普通じゃないんだ」
言葉少なに告げられるその背後に、凛は何か重たいものを感じ取った。
家族に暴力があること、誰にも言えない孤独。
それを吐き出すように、優斗は肩を震わせた。
凛はただ黙って聞くしかなかった。
慰める言葉も、励ます言葉も見つからない。
ただ、隣にいるだけでしかできないことがあるのだと、凛は知っていた。
その夜、凛は家に帰らず、スマホの画面を見つめながら考えていた。
――誰かに秘密を打ち明けることで、人は少しだけ軽くなるのか。
でも、同時に何かを背負い込むことになるのかもしれない。
翌日、教室では美空がひっそりと席に座っていた。
噂や冷たい視線に追い詰められ、誰とも話さずにいる。
しかし、凛と優斗の距離が少し縮まったことを、美空は無意識に感じ取っていた。
三人の関係は、まだ形を持たない。
けれど、誰も知らない秘密を少しずつ共有することで、確かに繋がり始めていた。
その夜、凛は初めて「人を守りたい」と思った。
しかし、同時にその思いが、後に自分たちを壊す原因になることを、まだ知らなかった――。
あなたは、誰かの秘密を知ったとき、
その人の心を守ることができますか?
それとも、知らなかったほうがよかったと思うこともあるでしょうか?
凛たちの距離は少し近づきました。
しかし、そのつながりは必ずしも安全ではありません。
次の章では、教室という小さな世界で、
見えないひび割れが少しずつ広がっていきます。
あなたなら、気づくことができますか?