白奏…陸
先程まで窓硝子に触れていた手が髪を撫でてくる。それを四季は拒まなかった。頬を滑った長髪の白銀が、瞳の中に映りこむ光彩を白に染めようと足掻いている。
望んでいる者は確かにいる。
自分達を箱庭の中に押し込めた、未完成の世界など、そのまま滅んでしまえばいいのに。
真っ白に染め上げられたこの談話室で、誰かがそう呟いた。
それを聞いていた、四季を含め数人の欠片達は、同意する事もしなければ、その言葉を咎めることもしなかった。在る者は憎悪を燃やして。或る者は諦観を宿して。或る者は憐憫を刻んで。光彩に満たされた世界の崩壊を望んだ者を見ていた。
「・・・・・・・六花」
視界を、窓の向こうの世界を、過ぎったものに四季は彼を呼ぶ。
六花も彼女に少し遅れてそれに気付いたようで、白銀の長髪を撫でる手が止まった。
背後で残された時間を各々過ごしている欠片達はまだ気付いていない。境界線で分かたれた二つの世界の変化に。
音がする。
瓶の中の砂が零れ落ちていく音。
広い空間を占める数人の人間達の話し声に紛れることなく絶えず響いているその軽やかで残酷な音を聞きながら、四季と六花はただ、窓の外を流れていくそれを見つめていた。
「桜…」
薄い唇から洩れたそれが、果たしてどちらの名だったのだろう。




