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終奏…肆
腕が外される。自然と膝を折り、もう一度降り積もった雪を両手で掬う。
世界は美しい。剥がれ落ちた全ての欠片を取り戻し、本来の姿へと戻った時間は、たとえ単色だったとしても、見惚れる程に美しかった。
再び掬った雪の華も、すぐに掌の上で溶けてしまう。今はもうない、されど過ぎ去った時の中には確かにここに存在していた白い世界の中にいた時は、降り積もっていく天使の羽も、こうして消えていく雪も、どちらも死だと思っていた。
否。
天使の羽も、硝子の欠片も、どちらも生だ。
いずれ溶けてしまう積雪も、流れた先で大河の一滴となる。それはただ、命が形を変えただけだ。
掌の上の硝子も同じこと。
雪が水となり、水が水蒸気となる。それは空へと昇り、やがて雲となる。そして、そこからまた、地上へと降ってくる。
命の連鎖。途切れることのない、生の繋がり。
「今は、冬なのだな」
掌を濡らす雪をそのままに、呟く。




