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儚奏…拾参
談話室の扉が開かれる。
今だけは、彼女にとっては、それは新しい人生への出発点だ。
「四季。ありがとう」
笑顔の大人達に付き添われて部屋を出て行きかけた彼女が振り返って残していった言葉は、また会おうという約束に聞こえた。
閉ざされた扉に躊躇いもなく背を向ける。見つめた窓硝子は細い涙を幾筋も流していたが、この雨もすぐに止むだろう。
時雨とは、降ったり止んだりする、冬の始まりを告げる雨を指す。
「天使のゆりかごが残る地に、冬の始まりを告げる雨か」
矛盾だらけの世界だ。
それでも、この箱庭を出て行った欠片達は皆、その世界を美しいと言う。
興味がないといえば、それは既に嘘になる。
そうだ。素直に認めよう。彼等と同じ世界を見る事を、自分は今、楽しみに待っている。
雨が上がるのを待たずに四季は窓際から遠ざかる。定位置の長椅子に座って読みかけの本を手に取る。頁を捲るその狭間に、銀の双眸が広い談話室を滑った。
こんなにこの場所は広かっただろうかと、物語の世界へと入り込む前の思考がそんな呟きを落とした。
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