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儚奏…拾弐
浮かべられていた透明な微笑みは消えて、顔を歪めた時雨の伸ばされた腕が四季を包み込む。
「四季…。ごめんなさい…」
耳元で囁かれる声音に、笑い声の方が好きだと、四季は思う。
抱き締めてきた時雨の背に腕を回す。そっと抱き締め返せば、その肩が僅かに震えた。
「貴女を独り、残してしまう」
頬に落ちる雫がある。
窓硝子を叩く雨粒がある。
天使は子守唄を歌うことに飽きて、綺麗な歌声をもっと聴きたいと乞う天が泣いている。
彼女の白い頬を縁取る黒髪を焼き付けた銀の双眸を細め、四季は宥めるようにその背を叩いた。
「――おめでとう、時雨」
謝罪など必要ないのだ。
泣き続ける時雨の耳元で囁けば、息を呑む音が聞こえる。腕を外せば自然と二人の体は離れ、見上げた先で出会った驚きの黒の瞳に四季は微笑む。
伸ばした手でそっと、眦に浮かんだ涙を拭ってやれば、やっと彼女はあの透明な微笑を取り戻した。




