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儚奏…拾

「また、一ヵ月後」

 ここはただ、白い世界の気紛れによってその存在を許されている仮初の時間でしかない。手を掛けた扉を再び閉ざせば、消えてなくなってしまう、そんな儚い場所。

「四季。その前に、お前がここを出ているかもしれないよ」

 現と夢の狭間に別れを告げる扉を閉める間に滑り込んできた返しに四季が浮かべた笑みを彼が見る事は決してない。

 別れの言葉も告げぬまま、背後の扉は閉じられる。

 消えてしまった空間に対する未練はない。白い世界へと戻る躊躇いもない。だから、談話室へと戻る四季の歩調が乱れることもない。

 体が覚えてしまった道順だ。その程度には、待つ時間があった。

 辿り着いた扉を開ける。そこにかつての喧騒はなく、寂寥感すら孕んだ静寂が四季を出迎えた。


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