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儚奏…壱
箱庭がその存在を許したのは、それが、己と同じ色を持っていたからだろうか。
意味もなく足跡を刻む。白い壁で四角く切り取られたこの空間で風が歌うことはない。天使の子守唄を邪魔することは許さないとでも言いたげに。
手を軽く翳す。掌に落ちてきたそれは、己の有する体温ですぐに溶けて消えてしまった。ただ、ほんの僅かな時間、白き羽は六つの花びらを持った花に姿を変える。
解けたそれは水になる。そして、やがて存在そのものを消してしまう。
「四季」
背後から掛けられた声に振り返る。
そういえば、いつも彼は、後ろから名前を呼ぶ。
「六花」
待つ理由が出来た。
行く理由を得た。
命の砂が零れ落ちてく音を聞きながら、だから、彼が訪れるのを待っていた。
月に一度、彼に会いに行く。
月に一度、彼が会いに来る。




