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淡奏…拾壱
そんな和やかな景色を、座る者のいなくなってしまった椅子の傍らで眺めていた六花は、テーブルを囲んだ周囲が静かになった頃ようやくその輪に加わる。
盤上の遊戯は静寂と緊張に満たされた白い世界の中で淡々と進められていく。駒が動く音と遊戯の行く末をじっと見守る人間達の呼吸音だけが、世界が唯一己の領域を侵すことを許した音だ。
「チェックメイト」
世界の意志など関係ない、とでも言いたげに。
響き渡った怜悧な声が空気を震わせる。それが引き金となり、部屋に結ばれていた緊張の糸が切れた。
「くっそ…!」
肘掛に拳を打ちつけて悔しがる桔梗を、立ち上がった四季は上から見下ろした。
「精進」
「・・・・・・ッ!四季!このやろ…!」
落とした一言に激昂して伸ばされた桔梗の手を四季は華麗にすり抜ける。そんないつもの光景に盤上の対戦を見守っていた観客は笑う。
命の砂が零れ落ちていく音が聞こえる。
砂時計が次に終わりを告げるのは、この中の誰になるのだろうか。
穏やかな光景に、六花はそんな事を思った。
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