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淡奏…拾

 憐れみも、同情もいらない。ここにいる世界の欠片達は皆、箱庭の中に転がっている幸せを掴んでいる。

 零れ落ちる命の砂時計の終わりは唐突に訪れる。その終焉を、悲しむ者がいないのはそれ故だ。

 死する者は、色彩溢れる世界で、己が残してくものが、大切な人を笑顔にする事も知っている。

 その死を見取る欠片達は、去って逝った欠片が幸せだった事を知っている。

「四季」

 背後から掛かった呼び声に四季は振り返る。腕と頬に感じていた温もりはその際手放してしまったけれど、特に未練はなかった。

「チェス」

 チェス盤が置かれた小さなテーブルを挟んで向かい合わせに置かれた椅子の一つを指差し、誘ってくる相手に首肯を返して四季は立ち上がる。

 二人の対決を静観しようと、既に何人かがテーブルを取り囲んでいた。

「今日は負けない」

 クッションのいい椅子に腰掛ける途中で耳に滑り込んできた相手の意気込みに、四季は微かに笑みを漏らした。

「その台詞、今日で聞くのは五十一回目だ。桔梗」

 茶化すように返せば、桔梗はその白い頬を紅潮させる。

「う…うるさいな!今日は絶対、まいったって言わせてやる」

「百二十七回目」

「四季!」

 驚異的な記憶力を駆使した嫌がらせを尚も続ける四季に、己を指差した彼女の人差し指を払った桔梗は叫ぶ。

 意地になるその姿が周囲の人間の笑いを誘う結果になるのだ。毎回の事でそれを学んでもいいはずなのに、彼は四季にチェスを申し込む度にいい遊び道具にされてしまっている。


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