白奏…捌
一列に並んだ白の集団が白い世界をゆっくりと歩いていく。悼む色を纏わぬ葬列の滑稽さを嗤う者はいない。
泣き声が聞こえた。開け放たれたままの扉の向こうに広がる空間から哀惜の念が零れて落ちて、それでも世界は白いまま。
「…あの子は、幸せだったのでしょうか」
白いベッドに横たわる彼の傍らに立って泣き続けていた母親の問いが誰に向けられたものだったのか。この部屋にいる全ての者がその呟きを聞きながら、転がり落ちた疑問を拾おうとはしない。
嗚咽が洩れる。止まらない涙を拭う母親の肩を、寄り添うようにして立っている父親が優しく抱き締める。
三方の壁に張り付くようにして世界の欠片達は部屋の中央に置かれたベッドを見つめている。銀の瞳に悲しみを浮かべている者は果たして、何人いるだろう。
悼みの声が満ちる中に、それでもあの、砂が零れ落ちていく音は絶えず響いている。
四季は歩き出した。緩やかに、されど確実に、死の横たわる部屋の中央へと近付いていく。
顔を上げた彼の両親と目を合わせるようなことはしない。彼等と対面の位置で立ち止まり、四季の銀の双眸はそこで眠るように瞳を閉じている者を映し出していた。
伸ばした手で頬を撫でる。
彼の命の砂時計の砂は全て落ちてしまった。




