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白奏…漆
四季の呟きに被さるように、或いは掻き消すように、談話室の扉が開けられた。
話し声が止む。幾対もの瞳が入り口へと向けられる気配がする。
白服を纏った大人がその死を告げる。その表情は、きっと、悲しみと悼みで歪んでいたのだろう。
窓の外を舞い踊る薄桃色の花びらを見つめ続けていた四季が、それを視認する事はなかった。
桜の花は風に舞う。
その姿に、一月に一度だけ許される、母と父との再会を喜ぶ少年の笑顔が重なって見えた。
「四季、行こう」
いつもならばすぐに閉ざされてしまう扉がまだ開いている。談話室にいた数人は既に廊下へと出てしまっていて、未だ残っている六花が四季の背にそっと手を添えて促す。
抗う理由がなかった。だから四季は従う。
二人が廊下へと出れば、背後で音を立てて扉は閉じられる。廊下もまた白一色で、背後の扉と窓とではその役割も背負う意味も全く違っているのだ。
白い扉は二つの空間を繋ぐ分岐点。
白い窓は二つの世界を分かつ境界線。




