ジャイアント女子高生ミニマムカちゃんは魔法少女
「いっけなーい、遅刻遅刻ー!」
あたし、小ヶ峰 最小華!
文粒去高校に通う、ちょっぴりドジな17メートル!
チャームポイントは真っ赤なツインテールと、エメラルド色のまんまるおめめ! あと巨体!
ただいま業務用冷蔵庫みてえな大きさのトーストをくわえて、学校まで猛ダッシュ中!
「もうっ、なんで起こしてくれなかったのよ! お母さんのバカ! 矮小!」
お母さんはすごく小柄(195センチ)だから、もしかしたらあたしの耳まで声が届かなかっただけで、実際は何回も起こしてくれてたのかもしれないけれど。
でも結果的に起きなきゃ意味がないっつーの!
もっと大きな声出してよね! ぷんぷん(空をも焼き尽くさんばかりの蒸気)っ!
ていうかあたしの体なら家から学校までたった30歩くらいしかないんだもん! まだまだ時間は余裕なんだもん! ざまあみろんだもん!
「今日は大事な小テストがあるから遅刻できないわ! まぁあたしにとっては全部が小テストみたいなもんですけどね! サイズ的な意味で! ゲルシャシャシャシャ!!」
あたしは腹を抱えて大爆笑しながら皆様おなじみメガトンミニミニドリフトを駆使して曲がり角をマムマムと曲がる。すると……
「ぐばああああああああああああ!!!」
爪先に何かがぶつかって、300メートルほど後方に真っ直ぐ飛ばされていった。
「なぁんだ、羽虫か」
「羽虫じゃねえっ!! 俺は人間だ!!」
あたしの呟きに対して、300メートル先から男の子の声で返事が聞こえてくる。
誰だか知らないけど、耳が良いだけでなく声も大きいのね! バリおもれえ!
そして、その男の子は全身ボロボロの状態で、片足を引きずりながらあたしの前までやってきた。
寝癖でボサボサの黒い短髪に、のほほんとだらしのない目付きをしたそいつは、グググと頭を思いきり後ろに倒してあたしのことを見上げてくる。
「な、なんだぁこの巨人女は……!?」
んまあっ、うらデカき乙女に向かって『巨人女』とは失礼ね!
なんなのよこの出血マシマシ骨折マシマシ打撲マシマシのデリカシー抜き男! ラーメンかっつーの! ムキィィィィィ(地を裂く程の地団駄)ッ!!
「ていうかそんなジロジロ見上げてこないでよ! いたいけなメスのパンティー覗くなんてサイテーね、この塵芥が!!」
「いたいけなオスをメガホン使ってるみてえな大声とともに全速力で蹴り飛ばした奴にサイテーとか言われたくねえよ。スピード違反中の選挙カーにぶっ飛ばされたのかと思ったわ」
「こんなに可愛い女の子と曲がり角で正面衝突……とんだラッキースケベね!」
「どこがだよ。壁にぶつかって頭蓋骨が粉々になるところだったんだけど。ラッキースケベならぬアンラッキースカルっつってな。ハハハ」
「そこまで上手くないガリガリガリガリガリわね」
「レンガの親分みてえなサイズのトースト噛み砕きながらガチのダメ出ししてくんじゃねえよ。笑い話にしてやっただけありがたく思えや」
おっと、こんなミジンコサピエンスと話している暇はないの!
早くしないと学校に遅れちゃう~! あわわわわ(イグアスの滝にも引けを取らぬ発汗量)っ!!
「お、おい待てよデカ女。その制服……お前、すぐ近くの高校の生徒だろ? 俺を肩に乗せてってくれよ。さっきので足やっちまって……」
「はあ!? あんたみたいなすっとこドワーフなんか助けるわけないでしょ!」
「誰がすっとこドワーフだよ。男子高校生の平均ぐらいはあるわ一応……ってあれ? 足が治ってる……体の傷も消えてるし……どういうこった……?」
「ふーんだ! どうしても行きたきゃ自分で歩きなさい! あっかんべー!」
「うっわ腹立つ……そんな高ぇところから長ぇベロぶら下げてくんじゃねえよ。アドバルーンかお前」
キーンコーンカーンコーン……。
ああんっ! 取るに足らない存在(♂)と話している間に始業のチャイムが鳴ってしまったわ! ああんっ!
「おいおい……転校初日から遅刻じゃねえか俺……」
「は? あんた転校生なの? クラスは?」
「2年2組って言われたけど」
はにゃあー(騒音)!? こここここいつ、あたしと同じクラスゥー(爆音)!? ウッソでしょおー(轟音)!?
「あら奇遇ね、あたしも2年2組よ! 小ヶ峰 最小華っていうの! 身長は17メートル! 体重はヒ・!・ミツ」
「『ヒ・ミ・ツ!』って言えよキモい文字列だなおい。てかクラスメートなのかよお前。はあ……大森 巨太郎だ、よろしくな」
「そんな大きくないのにキョタローなんて名前負けしてるわね! ゲルシャシャシャシャ!!」
「てめえが名前にコールド勝ちしてるだけだろ。身長17メートルのどこがミニマムなんだよ。あと『ミニマムカ』が自分のこと棚に上げて嬉々として人の名前イジッてんじゃねえよ」
どうしましょう、チャイムも鳴っちゃったし……。
「とりあえず今日はサボりましょうか!」
「なんっでだよアウトローな生き様だなおい!! 急いで教室入りゃまだ間に合うだろ! てか教室入れんのかよお前!?」
「あんた転校生でしょ? ならあたしがこの町のこと、案内してあげるわ! それにあたし、誰にもバレないように学校サボってみるの憧れだったの!」
「誰にもバレバレだわ。今こうやって話してる姿も学校から丸見えだろ。お前みたいな擬人化して女体化して巨大化した位置情報みてえな奴がサボりなんて到底不可能…………ぬおっ!?」
あたしはキョタローを右手の小指と左手の中指でヒョイと持ち上げ、そっと自分の肩の上に乗せてみせた。
「ふう、これで安心ね!」
「変な持ち方!! 両手プルップルしてたじゃねえか慣れないことすんなよ!!」
「まずはどこに行こうかしら……」
ミニマムカきょろきょろタイム。タイムきょろきょろミニマムカ。
「……てかお前、なんでそんなデカいの? 今までどうやって学校生活を送ってきたわけ? 毎日登校するだけでも町への被害がえげつないと思うんだけど。あとどうやって学校で授業受けてきたの? それに教科書とか筆記用具とかも普通のサイズじゃお前には使えな」
「うーん、いいお天気ね! 食べちゃいたいくらいの青空!」
「聞けやっ!! ヒトの質問をそうめんみてえに流してんじゃねえよ半分に割った竹かてめえは!!」
「やだ、あたし竹なんかじゃないわよ信じて!『モンキー』と書いてサルよ!」
「『本気』と書いてマジだろバカバナナ!! こちとらお前がデカくなった理由を聞いてんだから早く答」
「それならオレアタシがお答えするペゥ!!」
ヌ゛リュリュリュリュアァ…………
「おいなんかお前のカバンから変なネコみてえなでっかい紫色の生き物が這い出てきたぞ!! 何だコイツぜんぜん可愛くねえしなんかグロい!! 催し物が目白押しだ!!」
キョタローがピーピーと叫びながら指差す先にいたのは、ギョロンギョロンの目玉とグニョングニョンの口とデロンデロンの耳を持つ、キュートでチャーミングな物体(通常時3メートル)。
あたしの、いちばん大切な相棒。
「ちょっとダメじゃない! 外にいる時は小さくなってぬいぐるみのフリしといてって言ったでしょネコッカス!」
「こいつ『ネコッカス』って言うのかよ愛ないなおい!!」
アイナイナオイ! あはっ、なんだか外国人の名前みたい!
『ハロー、アイナイナオイ! レッツゴートゥーヘル!』みたいな! ゲルシャシャシャシャシャ!! バカバナナだと!? 絶対に許さん!!
「ミニマムカはオレアタシと契約して、身長が契約時の年齢(17歳)と同じメートルになる代わりに、ありとあらゆる悪からこの町を守る魔法少女の力を手に入れたんだぺゥ!」
「間違いなくこの女が町にとって一番の災厄だろ!! あととりあえず一人称ウゼエからオレかアタシかどっちかにしろやネコッカス!!」
「ちなみに魔法少女になった特典として、ミニマムカが踏み潰したり蹴っ飛ばしたりした人や物は一瞬で復活するようになってるペゥ! だからミニマムカが走ろうが転がろうが跳び跳ねようが町への被害は皆無なんだペゥ! ペゥペゥペゥペゥ!!」
「なるほど、だから俺の傷も一瞬で治ったのか…………いやネコッカスの笑い方キモッ!!」
「確かにネコッカスの笑い方はキモいわね! ゲルシャシャシャシャ!!」
「いやお前の方が断トツでキモいだろ!! ヘソでドブ水を沸かしてるみてえな笑い方じゃねえか!!」
いたいけな女子高生に向かっていくらなんでもあんまりな物言いでは?
【クソカスピコンピコン!! クソカスピコンピコン!! クソカスピコンピコン!!】
突然、ネコッカスの右耳が天に向かってピンと伸びる。
「あっ! オレアタシの『クソカスレーダー』に反応ありぺゥ! 魔物が現れたぺゥ!」
「すごく嫌な音と名前!! てか魔物ってなんだよ俺にも説明しろよ!!」
また現れたのね……この町の平和を脅かす悪が!!
「説明は後よショタ! いくわよ、ミニマムカダーーーーッシュ!!」
「誰がショタだ高校生っつってんだ…………うおおおおおお!!」
あたしはネコッカスのレーダーが指す方向へ、脇目も振らずに突っ走る。
その際に踏み潰した建物や人は、あたしが通り過ぎた直後には何事もなかったかのように元通りになっていた。
「す、すげえ……ホントに一瞬で戻っちまうんだな……」
「ちなみに魔法少女になった特典っていうのはこれだけじゃないのよロリ!」
「俺はショタだ!!」
「なんと、あたしの願いが何でも二つだけ叶っちゃうのよ!」
「はぁ……まあ定番っちゃ定番だよな……まだ二つとも残ってんのか?」
「いえ、おととい首が痒くて仕方なかったから、願いを一つ使ってネコッカスに掻いてもらったの」
「もったいないおばけ達が百鬼夜行してる!! 背中とかじゃなくて首なら自分で掻けるだろうがもっと有意義に使えや!!」
残る願いは一つ。
大事に残しておかなくちゃ。
次に首が────痒くなった時まで。
そんなことを考えているうちに、辺りがムワッと暑くなってきた。
「おいミニマムカ!! あれ見ろ!!」
呼び捨てかよ馴れ馴れしいなコイツ。
キョタローが指差す方向を見ると、あたしと同じくらいの大きさの化け物が、辺りに火の玉を振り撒いていた。
「オーホホホホホホ!! アタクシはマグマを自在に操るマダム怪人……『灼熱貴婦人マグマダム』ザマス!! この町を火の海にしてやるザマス!! ざまぁザマス!!」
マグマで出来たドロドロのドレスのようなものを着こなした、全身が真っ赤の女モンスター。
狂ったような高笑いをあげる口から勢いよく吐き出された炎は、凄まじい速度で辺りに燃え広がっていく。
「おいおいおい町が大変なことになってんじゃねえか!!」
「まずはあそこにうつ伏せで倒れてる、いかにもモブっぽいおじさんに話を聞いてみましょう。大丈夫かしらモブおじ?」
「ぐふっ……キミ達も早く逃げるんだ……あのモンスターは危険だ……くそっ……せめて弱点の水さえ用意できれば太刀打ちできるのに……」
あらあら、お手本のようなモブ台詞だわ。面白いからあと何回か話しかけてみましょう。
「うぐっ……せめて水があれば……」
「うぐっ……せめて水があれば……」
「うぐっ……せめて水があれば……」
ダメだわ、あまりにモブすぎて同じ台詞しか喋らなくなっちゃったわ。
完全にRPGとかによくいる、ボス戦の直前にちょこっとだけ攻略のヒント教えてくれるタイプの名も無きNPCじゃないこのおじさん。現実にもいるのねこんな人。
「おい、モブおじで遊んでねえで早く何とかしてくれよミニマムカ!!」
「ったく、仕方ない小僧ね…………へ~んし~ん!!」
掛け声と共に、あたしの全身が強い光に包まれる。
「おいちょっと待て、肩にクラスメート乗せたまま変身するな! すげえ眩しいし、一瞬だけ全裸になるあの演出のときメチャクチャ気まずいだろうが俺!」
【♪捥いだろか 捥いだろか お前の右腕 捥いだろか
焼いたろか 焼いたろか 左の腕は 焼いたろか
折ったろか 折ったろか お前の右脚 折ったろか
食うたろか 食うたろか 左の脚は 食うたろか
※呪いあれ 呪いあれ お前の一族 呪いあれ
呪いあれ 呪いあれ お前の人生 呪いあれ
魔法少女 ミ・ニ・マ・ム・カ
(※繰り返し)
(※繰り返し)
(※繰り返し)
(※繰り返し)
(※繰り返し)
(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)(※繰り返し)♪】
「変身シーンで流れる歌こっっっわ!!! 曲調もわらべ唄みたいで不気味だしメルヘンさの欠片もねえ!!」
歌が終わる頃には、あたしの身体はさっきまで着ていた学生服から、ピンクのフリフリした可愛らしい衣装に変わっていた。
「覚悟しなさいマグマダム! 遺言があるなら聞き流してあげるわ!」
「ちゃんと傾聴しろザマス!! ていうか我ながらまあまあ個性が強い魔物だと思ってたのに、こんなに長いこと放ったらかしにされてムカつくザマス!! ちくザマスしょう!!」
あたしはごちゃごちゃ喋り続けているマグマダムの目玉に向かって両手を前に突き出し、そこからドロドロした深緑色の水を大量に放出した。
「必殺…………『メ・ミズカケル』!!」
「『レ・ミゼラブル』みたいな攻撃!! グギャアアアアアァァァァァァザマス!!」
あら、断末魔にもザマスがつくのね! 滑稽だなァおい!!
「ちょっ……何だよ今のきったねえ攻撃!! 両手からヘドロのビームみてえなもん出たぞ! 思い切り不意打ちだし!」
「説明するペゥ! ミニマムカは魔法少女モードになると、体の至るところから深緑色の液体をぶっぱなすことが出来るんだペゥ!!」
「汚ッッッ!!! どっちかというと魔物側の攻撃方法じゃねえかそれ!! まだマグマダムの技の方が気品あるぞ!!」
「『戦いにおいて真に美しき者とは、品のある技にこだわり続けて負ける者ではなく、穢らわしい技を使ってでも勝利を収める者である』ミニマムカ=チイサガミネ(1159~)」
「エルフみてえな長寿!! てかさっきまでヘドロ撒き散らしてた女が偉人みてえに凛々しい顔で名言吐いてんじゃねえよボケ!!」
とにかく勝ったわよ!! マグマダムは討伐したわよ!! ざまあみろわよ!!
「まだ……ザマス……!!」
は? なにコイツしぶと。
「くそザマスったれ……アタクシを本気で怒らせたザマスね……これでも食らうザマス!!」
怒り狂ったマグマダムは、突然カッと目を見開いた。
あたし達は咄嗟に身構える。
でも、灼熱の炎が襲いかかってくるわけでも、辺りの気温が急上昇したわけでもない。
数秒の沈黙。
だけど、何も起こらない。
警戒心が解け、ゆっくりと肩の力を抜こうとした瞬間。
あたしは異変に気付いた。
「何よこれ……身体が動かないわ……!!」
「チッ、俺もだ……まさかこれもアイツの能力……!?」
あたし……と、どうやらキョタローも、全身がカチコチに固まって、身動き一つ取れなくなってしまった。どうやら動かせるのは口だけみたい。
「オーホホホホ!! これがアタクシの必殺技ザマス! 視界に入った人間の動きを氷のように完全に停止させることができるザマス!」
「灼熱貴婦人が自分の技の説明で『氷のように』なんてフレーズ使うんじゃねえよ!! 属性が真逆じゃねえか!!」
「おだザマスまり!! そういう必殺技なんだから仕方ないザマス!! その指摘は非常に野暮ザマス!!」
「そうよキョタロー! そんな小さなことイチイチ気にしてるとあたしみたいに大きくなれないわよ!」
「じゃかあしいわヘドロエルフ!! 誰も17メートルなんざ目指してねえよ!!」
と、とにかく大ピンチだわ。
いったい、どうしたら……!
「オレアタシに任せるペゥ!!」
「ネコッカス……?」
絶体絶命の状況の中で聞こえたのは、大事な相棒の声。
あたしの肩に乗っていたネコッカスが、マグマダムに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
そうか……マグマダムが動きを止められるのは、必殺技を繰り出すときに視界に入れた『人間』だけ。
ネコッカスは、マグマダムの顔にしがみつくと、全身を強く発光させた。
「オレアタシがコイツにトドメを刺すペゥ!! 一度しか発動できない切り札……自爆魔法を使うペゥ!!」
「き、貴様ッ……まさかアタクシを道連れにして自分も死ぬ気ザマス!? くっ、離れるザマス……!!」
「そんなっ……ダメよネコッカス!! 早くこっちに戻ってきて! あんたの助けがないとあたしは……あたしは……」
「ミニマムカ……オレアタシはミニマムカと一緒に過ごせて幸せだったペゥ……どうかこれからも魔法少女として……強……く…………」
「くっ…………くっそおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉザマス!!!!」
激しい爆発音。
ネコッカスを振り払う事ができなかったマグマダムは、悲痛な叫び声をあげながら消滅した。
「そん、な…………」
マグマダムがやられたことで、あたしの体は自由を取り戻した。
そのまま、固く冷たい地面に両膝をつく。
魔物は、討伐したのに。
戦いには、勝ったのに。
全部、終わったのに。
どうして、こんなに苦しいの。
こんなの、もう耐えられない。
お願い。
お願い……神様。
どうか。
どうか。
「マグマダムのせいで汗かいちゃって首がクソ痒いので痒み止めクリームください」
「いやネコッカス生き返らせろやゴラアアアアアアアアアア!!!!」
あたしの耳元でキョタローの絶叫ツッコミが炸裂する。
「なによ、動きを止められてる間ずっと痒くてたまらなかったのよ。ネコッカスに掻いてもらおうと思ったらマグマダムのところ飛んで行っちゃうし……」
「『あんたの助けがないと』ってそういうことかよ!! ここはどう考えても大事な相棒を生き返らせる流れだろうが! さんざんシリアスっぽい空気作っといて最終的に神様に痒み止めオーダーしてんじゃねえよ台無しだろ!!」
「生き返らせる……その発想はなかったわ。なかなか頭良いわねあんた」
「お前は脳ミソにヒアルロン酸でも塗りたくってんのか? シワが一本も見当たらねえけど」
「で、でも……もうさっき願いを全部言ってしまったわ……どうしま」
ポリ……ポリ……
突如訪れた、天にも昇るような心地よい感覚。
あたしの好みを知り尽くしたような絶妙な力加減で、鋭い爪のようなものが首筋を行き来している。
「ネコッ……カス……?」
「……ただいまペゥ、ミニマムカ」
後ろから、一つの優しい声。
あたしの、大切な相棒の声。
「どう、して……?」
「願いは確かに叶ったペゥ。だって、ミニマムカの首の痒みをどうにかできるのは……この世にオレアタシしかいないペゥ」
「……バカ……あたしがさっきお願いしたのは痒み止めクリームよ。せっかくの最後の願いを聞いてくれないなんて……あんたって奴は……ホントどうしようもない相棒ね……!」
ネコッカスを強く抱き締めるあたしを、キョタローは優しく微笑みながら眺めていた。
「いやあ助かった、礼を言うよキミ達!」
「いやあ助かった、礼を言うよキミ達!」
「いやあ助かった、礼を言うよキミ達!」
念のため三回話しかけてみたけど、モブおじのセリフもちゃんとクリア後のものに変わってるわ。
間違いなく、戦闘は終わったのね。
「ははっ……ていうかミニマムカお前、一発ヘドロビーム出しただけで何の役にも立ってなかったよな。ネコッカスがいなきゃ詰んでたぞ」
「むっ、そんなことないもん!! あの『メ・ミズカケル』が決定打になったのよ!」
「いや、全部オレアタシの力だペゥ! 二人とも、オレアタシの華麗なる大活躍に感謝するペゥ!」
「こらネコッカス! 調子に乗るんじゃないわよ~!」
「いたたっ、暴力反対ペゥ~!」
「……ぷっ、ははははははははは!!」
「ゲルシャシャシャシャシャ!!」
「ペゥペゥペゥペゥペゥペゥ!!」
「オーホホホホホホホホホホザマス!!」
「テメエは生き返んじゃねえよ!!!」
「うぐっ……せめて水があれば……」
「セリフ戻すなモブおじ!!!」
おザマスわり