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第一章9 『記憶の檻と、仮面の牙』

夜が明けた。

洞窟を離れ、俺たちは西の丘陵地帯へ向かっていた。クラウスが「旧霊印家の文書庫が近くにある」と言う。そこに、五木の過去や“拒絶”の鍵となる手がかりが残されているかもしれない。


しかし、その道中――


五木は何度も足を止め、苦しげに頭を抱えていた。


「……五木、大丈夫か?」

俺が肩に手を置くと、彼女は震える声でつぶやいた。


「何かが、頭の奥でざわついてるの……夢? それとも……記憶……?」


クラウスが前を歩きながら振り返った。


「記憶を封じられている者には、こういう反応が出る。“拒絶”に近づくほど、封印が緩む。無理はさせるな」


俺は頷き、五木の手を取った。


やがて、小高い丘の上に、廃墟となった石の館が見えてきた。


中に入ると、古びた本棚や破れた巻物が散乱していた。


「ここが……霊印家の文書庫か」


リリナが慎重に歩を進める。その奥、朽ちかけた壁に掘られた古文が目に入った。


《“血の継承者は、拒絶の心臓となる”》


その瞬間、五木が悲鳴を上げて倒れ込んだ。


「うっ……ああああああっ!」


「五木!」

駆け寄る俺の目の前で、五木の瞳が赤黒く染まった。


――そして、映像が、俺たちの前に投影されるように浮かび上がった。



小さな村。

そこで笑顔を見せる、幼い五木。

彼女の傍らには――犬の姿をした夫婦。


「五木、お前はいつか、この世界を救う役目を担うんだよ」

「私たちの血は、“扉”を閉ざす鍵になる。けど、それが狙われている……」


温かい声。優しい手。


だが――


《焼け落ちる村》《兵士に踏み殺される犬たち》《仮面の男が笑う》


「“拒絶の核”は無力だ。だが、制御できれば――“神を超える”」


そして、幼い五木の前で、両親は――命を落とした。



五木は涙を流しながら叫んだ。


「やめてえええええ!!」


映像がかき消え、彼女は荒く息をして膝をついた。


「……私……思い出した。私、人間じゃない。父さんと母さんは……犬だった……!」


リリナは一瞬戸惑ったが、すぐに膝をついて五木を抱きしめた。


「それがどうしたのよ。私たちは、もう知ってた。でも、五木は……私たちの大事な仲間でしょ」


クラウスも言葉少なに頷いた。


「動物だから何だというんだ。お前の“意志”が、お前自身だ」


「みんな……!」


五木が涙を拭ったそのとき――


外で地響きが轟いた。


「これは……!」


俺たちが外へ飛び出すと、丘の下に仮面をつけた兵士たちが整然と並んでいた。


その中央、白と赤の奇妙な仮面をつけた、長身の女が一歩前に出た。


「“核”が目覚めたようね。さすがは《処刑犬エクスキュート・ドッグ》の娘……五木蓮」


「なに……?」


クラウスが目を細める。


「……お前は、“門の牙”の幹部か?」


「ええ、コードネーム《ジャーミィ》よ。この世界を正す“再編”の尖兵。そしてあなたたちは、“拒絶”を理解しない愚か者」


ジャーミィが手を振ると、周囲の仮面兵たちが一斉に動いた。


その身体は、まるで鋼鉄の塊のように膨れ上がっていく。


「来るぞ! 数が多い、包囲される!」


クラウスが剣を抜き、俺も構えた。


だが、五木が前に出た。


「お願い。戦わせて。私はもう、逃げない。自分の正体からも、過去からも」


その瞳は、しっかりと真っ直ぐに光っていた。


「やってやろうじゃねぇか、五木!」

「みんなで突破するぞ!」


俺たちは再び、世界を駆ける。


ただ生き延びるためじゃない。


五木の記憶と、“門”の謎を超えるために。



丘の上――



俺たちは、ずらりと並ぶ仮面の兵士たちに囲まれていた。

その数はざっと200人以上。全員が黒い仮面をつけ、金属のような鎧に身を包んでいる。


風が、ピィィィと鳴いた。


「来るぞッ!」

クラウスが抜刀と同時に駆け出す!


彼の動きは速かった――まさに風のよう。

一瞬で仮面の兵士の背後に回りこみ、鋭い斬撃を繰り出す!


「やっ!」

ガキィィィィン!!


剣がぶつかる音が響いた。敵の鎧は硬い……でも、クラウスの剣は、それを少しずつ切り裂いていく!


「蓮! 後ろ、来てるよ!」

リリナの叫びに振り返ると、俺の背後に仮面兵が迫っていた!


「おっとと!」

間一髪で避け、足を引っかけて転ばせる!


「五木、援護頼む!」


「うんっ!」


五木が、腰に下げた短い刀を抜く。

その目には、もう迷いがない。


「絶対に、負けない!」


シュバッ――!

軽やかな動きで仮面兵の脇をすり抜け、逆手で斬りつける!

1体、2体と倒していく五木。


リリナも体術で応戦していた。

素早い動きと蹴り技で敵を翻弄している!


「なによっ、仮面かぶって偉そうに! こっちだって、やられるわけにいかないのよ!」


ガスッ! ドカッ!


敵がよろけた瞬間、俺は叫んだ。


「クラウス! 一気にいくぞ!」


「任せろ!」

クラウスが高くジャンプし――その剣に、青白い光が走った。


(……魔法はないけど、これが“剣の技”か!)


「《閃牙せんがの一撃》!」


ザシュッ!


広範囲を一閃! 数体の敵が吹き飛んだ!


「よっしゃああああっ!」


俺も叫びながら突撃し、敵の腹を殴って地面に叩きつけた!


――数分後。


仮面兵たちはほとんど倒され、立っているのは俺たちだけだった。


「ふぅ……終わった、か?」


「終わってないわ」


そう言って前に出てきたのは、白と赤の仮面をつけた女――ジャーミィ。


「雑魚を片付けただけで満足? 本当の戦いはこれからよ」


ジャーミィの体がゆっくりと変化する。

その腕が伸び、鎧のように変形していく。


「人じゃない……!」


「私たち“門の牙”は、拒絶を超えた存在よ。さあ、楽しませてちょうだい」


五木が一歩前に出た。


「私たちは、絶対に負けない……大切なものを、もう失いたくないから!」


風が止まり、全員の視線が重なった。


ここからが、本当の戦いの始まりだった――!



最後まで読んでくれてありがとうございます!

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