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第一章7 『クラウスの誓い』

神殿を出た俺たちは、ひとまず麓の村へと向かった。氷狼との戦いで全員疲労しており、情報を整理する必要もあった。


夜、焚き火の明かりの中で、クラウスは無言のまま剣を磨いていた。

その横顔には、いつも以上に鋭い影が差している。


「クラウス。さっき神殿で言ってた“引き寄せた”って、どういう意味だと思う?」


俺の問いに、クラウスは手を止め、静かに言った。


「……あの仮面の言葉が本当なら、この世界とお前の存在は、無関係じゃない。むしろ“世界を歪める鍵”として、何かと繋がっている可能性がある」


「でも俺、何もしてない。ただ普通に……」


「それでも、お前がこの世界に来てから、何かが動き出している」


リリナも言葉を添えた。

「“拒絶”の力、そしてスキルの異常。あたしたちの村でも、最近じゃスキルが暴走することが増えてる。今までになかったのに」


五木は少し不安そうに言った。

「ねぇ、それって……竜也のせいじゃないよね?」


「いや」

クラウスが即座に否定した。


「竜也の意思ではない。だが……おそらく、もっと大きな意志が、竜也を通じてこの世界に影響を及ぼしている」


俺は黙って拳を握りしめた。


「……だったら、俺はその正体を突き止めて、元の世界に帰る方法を見つけてやる」


「それでいい。だが、もしその過程で――お前自身がこの世界にとって“脅威”だと証明されたら……」

クラウスは一瞬だけ目を伏せた。


「俺が斬る」


空気が一瞬、凍ったように感じた。


リリナと五木が驚いた顔でクラウスを見る。


だが、クラウスはすぐに穏やかな口調で言い直した。

「……そうならないことを信じている。だが、もしもの時は、俺がこの手で責任を果たす」


「クラウス……」


その言葉に、俺は不思議と怒りも恐怖も感じなかった。

むしろ、覚悟の重さと、信頼の形を見たような気がした。


「なら、俺は絶対にそうならない道を選ぶ。お前に斬らせるわけにはいかないからな」


「……フッ、頼もしいな」

クラウスが微笑む。


五木が勢いよく立ち上がった。


「だったらあたしも! 竜也がもし悪いやつになりかけたら、ぶっ飛ばして正気に戻すから!」


「頼りになるね。」

リリナが笑う。


焚き火の炎が、静かに夜を照らしていた。


それぞれが、何かを背負いながら、それでも前に進んでいる。


そして、夜の帳の向こう――遠くの空に、ひときわ大きく赤い月が昇り始めていた。


それが何を意味するのかを、まだ誰も知らなかった。


翌朝、俺たちは村を出た。


クラウスが知っているという「遺された貴族の旧館」――そこに、神殿で得た手がかりの続きを探すためだ。赤く染まった月のことが頭から離れない。昨夜、空に浮かんだあの異様な光は、ただの自然現象ではなかった気がする。


「この辺りに、スキル異常が頻発している地域がある」

クラウスが歩きながら言った。


「そこに向かうってこと?」リリナが聞き返す。


「その通りだ。そして、旧館はそのすぐそばにある。元は俺の主が暮らしていた場所だ」


五木が首を傾げた。

「じゃあ、そこに“拒絶の力”の痕跡とかが残ってるかもしれないってこと?」


「ああ。もしこの世界のバランスを崩している力があるとすれば、そこに触れていた可能性が高い」


俺は一歩、早足になって前に出た。

「だったら、そこで手がかりを見つける。俺が“この世界に来た理由”も、元の世界に戻る方法も……絶対に」


その時だった。


――ゴォォン……


空気が、揺れた。

地鳴りのような、空から響く音。


振り返った俺たちの視線の先、遠くの山の向こうに赤い光の柱が立ち昇っていた。


「……何だ、アレ」五木が呟いた。


「まさか、昨夜の赤い月の影響……?」リリナが顔をこわばらせる。


クラウスは目を細めた。

「いや――違う。あれは……“門”の兆候かもしれない」


「“門”? 仮面の奴が言ってた……?」俺は声を詰まらせた。


「もし“門”が開こうとしているのなら、それを操る存在がいるということだ。そして、そいつは……」

クラウスが剣の柄に手を置いた。


「俺たちを待っている可能性がある」


旅の空気が、一気に張り詰めた。


俺たちは、急ぎ足で赤い光の方角へ向かい始めた。


だが、そこへたどり着く前に――“それ”は現れた。


雪を割って立つ大きな影。


身の丈3メートル近い鎧の巨人。その腕は鋭く歪んだ鉤爪のような鉄、仮面のような顔には何の感情もない。


「な、なんだコイツ!」五木が叫ぶ。


「警戒しろ……スキルの気配はない。だが、剣の気配はある」

クラウスが前に出る。


「お前らは下がっていろ。こいつは……俺がやる」


クラウスが抜刀した瞬間、空気が変わった。

それはもはや“剣術”というより、“戦場の気配”だった。


俺たちは、息を飲んでその光景を見守るしかなかった。


氷原の上、静かに一対一の死闘が始まった。

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