第一章3 『初対面の王様は、やっぱり話が通じない』
王宮の門は、思っていたよりもでかかった。
石造りのアーチに金属の装飾、門の向こうには広大な庭園と、衛兵がびしっと整列している。
「うわぁ……マジでファンタジーじゃん……」
連れてきた兵士が「ここで待て」と言い残し、俺は王宮の中庭でしばらく待たされた。日差しは強いけど、風は心地いい。
「……で、俺はここからどうすんの?」
返事はない。
っていうか、なんでこんなに急展開なんだよ。昨日までアイス買ってた俺、どこいった。
「お待たせしました。召喚者様、こちらへ」
やって来たのは、いかにも“宮廷魔術師です”って感じのローブをまとった老人。細い目をして、長いヒゲを撫でている。
「……もしかして、あんたがラスボス?」
「何を申すか。我はこの国の大魔導・ザロフ。陛下の側近である」
「いや、冗談だって……」
俺は軽く頭を下げながら、しぶしぶ城内へ。
通されたのは、巨大な謁見の間。天井が高くて、床がピカピカ。
そしてその奥に――
「よくぞ来た、勇者よ!」
金色の王冠をかぶった中年の男が、豪華な玉座から立ち上がった。
「……あんたが王様?」
「うむ。我が名はレグナス・アルバード。この国――フェルシア王国を治める王だ」
名前、覚えられる気がしないんだけど。
「さて、勇者よ。貴殿にはこの世界を脅かす“闇の魔王”を討つ使命がある!」
「いやいやいやいや、待った待った!」
思わず手を振って止める。
「俺、勇者になる気ゼロなんすけど。帰りたいんです。マジで」
「……帰る、だと?」
王様の顔が固まった。
「そう。俺は高校生だし、バイトもあるし、アニメの続きも気になるし……てか、魔王とか戦うスキルねぇし」
「ふむ……スキルについては問題ない。召喚と同時に、“適応の祝福”が授けられているはずだ」
「適応……? なにそれ、オプションサービス?」
そのとき、ザロフが手をかざした。
「よろしければ、スキル鑑定を行いましょう」
「スキル……鑑定?」
「ええ。貴殿の持つ“能力”を視ることができます。稀に、世界を変えるほどのスキルを持っている者もいますので」
(いや、そんなチート展開ないだろ……俺、ただの高校生だし)
そう思ってた。なのに――
ザロフが手を動かす…すると、俺の前に半透明のパネルが浮かび上がった。
【吉田竜也】
種族:人間
年齢:17
職業:???
スキル:
- 「帰還願望Lv.MAX」
- 「拒絶の意志(EX)」
- 「???」(未解放)
「……なにこれ」
ザロフが眉をひそめる。
「……これは……非常に、珍しいスキル構成ですな」
「“帰還願望Lv.MAX”って何だよ! スキルなの!?」
「おそらく……この世界に“強く帰りたい”という意志が、何らかの形で具現化しているのでしょう」
「意味わかんねぇよ!」
でも、俺の中に――
たしかに“帰る”ことだけは、何より強く願っていた。
そして、“???”という未解放スキル。
これが何なのか、今の俺にはまだわからない。
「……吉田竜也よ。貴殿の意志は理解した」
王様が静かに言った。
「だが、願うだけでは道は開けぬ。この世界のどこかに、元の世界に戻る手段があるかもしれん。それを探すには、まず世界を知ることだ」
「つまり、旅に出ろってことか?」
「うむ。そして……もしこの国に手を貸してくれるなら、我らも貴殿の“帰還”を全力で支援しよう」
一瞬、心が揺れた。
協力すれば、帰れる可能性が上がる?
(けど……どうせ、また勝手に“勇者”って扱って、戦わせようとするんだろ?)
「……考えさせてくれ」
俺はそう言って、王宮を後にした。
異世界に来た理由はわからない。
でも、“帰る”という目的はブレてない。
そして、俺の中の“何か”が、少しずつ動き始めていた。
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