第一章2 『異世界に召喚されてすぐ、兵士に捕まった。』
街の空気は、妙にクリアだった。
空気清浄機でも通したのか?ってくらい、鼻に抜ける匂いがやけに自然で、現実味がある。
「うわっ、マジで異世界かよ……」
俺は白い石畳の上を、ひとまず適当に歩くことにした。
街には、人間ばかりじゃない。
でっかいトカゲっぽい顔のやつとか、普通にすれ違うし……
(うわ、あの猫耳の子、耳ピコピコ動いてんじゃん。ちょっとかわいい……じゃなくて!)
とにかく俺の目的は、現実に帰る方法を探すこと。勇者? 知るか。
と、そのとき。
「おい、お前。そこで何をしている?」
いきなり声をかけられた。振り向くと、鎧を着た兵士がこっちを睨んでる。
「え、俺? いや、ちょっと散歩というか、観光というか……」
「ここは神殿区域だ。許可なく立ち入る者には、処罰が下ると決まっている。」
「え、そんな物騒な――って、わっ!?」
いきなり肩を掴まれて、腕をひねられた。
「痛い痛い痛い! ちょっと、何すんだよ!」
「黙れ、不審者が!」
え、待って、なにこの理不尽!?
しかも、あっさり連行される俺。完全に疑われてるやん!
「待て待て待て! 俺、さっき召喚されたばっかで、ただの通行人――」
「召喚者だと? 貴様が?」
そこに、別の兵士が割って入ってきた。さっきのより少し年上っぽくて、落ち着いた雰囲気だ。
「確かに、神殿から連絡があった。召喚の儀が成功し、新たな者が現れたと。」
「ほらな! ほら見ろ! 俺、ちゃんと正規ルートで来たんだよ!」
「だが……」
兵士は俺をじっと見つめた。
「お前、なんで神殿にいない?」
「……逃げた。」
「逃げた!?」
ああ、もう面倒くせぇ。
「なんでって、勇者とか無理だし。なんで俺が戦わなきゃなんないんだよ。家に帰してくれれば全部丸く収まるじゃん!」
俺がぶつぶつと文句を言っていると、兵士の一人が苦笑しながら言った。
「……気持ちはわからんでもないが、少なくともこの世界での“召喚”は、戻れる保証がねぇんだ。」
「……え?」
「帰れる方法なんて、聞いたことがない。あったら俺だって故郷に帰りたいくらいだ。」
俺は言葉を失った。
え? マジで? 「戻してくれ」って言えば帰れるんじゃないの? そういうもんじゃないの?
「まぁ、とにかく一度、王宮に顔を出せ。下手に逃げれば“敵”とみなされるぞ。」
「うわ、最悪だ……」
俺は、ため息をついた。
どうやら、この異世界は“勇者”とか“使命”とかよりも、“現実の理不尽”が山盛りらしい。
でも――
(どこかに、帰れる方法があるかもしれない。王様や誰かが知ってるかもしれない)
だから、俺は諦めない。
異世界の勇者にはならない。けど、現実に帰るためなら……しょうがない…。
「……わかったよ。王様んとこ、行きゃいいんだろ。」
そう呟いて、俺は兵士たちに連れられ、王宮へと向かった。
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