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プロローグ
あなたのくれた勇気、もう聴けないのかな。
大学二年生の秋、親友の香菜が交通事故で亡くなった。
激しい事故だったらしく、棺の中で見送るはずだった香菜の綺麗な顔を、私は見ることができなかった。
涙を流す彼女の両親。
暗い色のハンカチで口元を覆い、『小さい時から、ずっとありがとうね』、そんな言葉を聞いた気がする。
曖昧に返事した私がどんな顔をしていたのか、もう思い出すことができない。
履き慣れないパンプスを脱ぎ散らかし、下宿先へと帰ってきた。
もう使われなくなった大きめのワードローブ。かかった洋服を優しく手でなぞらえた。
匂いの残ったベッドにうつ伏せで横たわり、喪服のまま静かに目を閉じる。
線路が近く、交通の便が良いだけの安いマンション。
列車の横切る音が窓を閉めていても聞こえてくる。
いつもは気にならなかったその音が、今はより大きく感じた。