67 ジュリエッタの不安
「お待たせ。ルーシアに謝ってきたわ」
しばらくしてジュリエッタが戻ってきた。
思ったよりも長い時間、話し込んでいたらしい。一体、何を話していたんだろうか……。
「ごめんね、待たせてしまって」
ジュリエッタが申し訳なさそうに言う。
「いや、いいんだ。仲直りできたのか?」
俺がたずねると、彼女は一瞬、複雑そうな表情を見せた。
「……ええ、まあね」
ジュリエッタが微笑む。
ただ、その笑みがどこかぎこちなく感じたんだけど――。
本当に仲直りできたんだろうか?
何か引っかかる……。
と、
「遺跡探索……気を付けて行ってきてね」
ジュリエッタが俺を見つめた。
「ん? 心配か?」
俺が軽い口調で返すと、
「当たり前でしょ!」
ジュリエッタが叫んだ。
「い、いちおう婚約者なんだし……」
うつむきながら、小さな声で付け加える。
「はは、俺が死んだら婚約は破談になってしまうからね。がんばって生還するよ」
「縁起でもないこと言わないでね。絶対戻ってきて」
ジュリエッタが身を乗り出す。
その瞳は真剣そのものだ。
「当然だ。王族もかかわる探索行で成果を上げれば、ローゼルバイト家自体が王家の覚えもよくなる。領地が窮状の今、そういうことも大切になってくるんだ」
俺は力を込めて言った。
これはローゼルバイト家を立て直すための、そして俺自身の運命を変えるための重要な一歩なんだ。
「……領地の運営も大事だけど、あなたが一番大切よ」
ジュリエッタがさらに身を乗り出した。
「約束して。必ず帰ってくるって」
「もちろんだ、俺は――」
俺が答えようとした瞬間、
「待ってるからね」
ジュリエッタの言葉がそれを遮る。
見ると、彼女の瞳に大粒の涙が浮かんでいた。
彼女は本気で心配してくれている――。
「……誓うよ。君の元に必ず戻る、と」
俺はジュリエッタを見つめ、真剣な顔でうなずいた。
こういう時にスキルで誤魔化すのは違う。
だから俺自身の、偽りのない言葉で応えた。
その言葉はスキルを使う以上に、きっと彼女の心に響いたはずだ――。
そして、当日になった。
いよいよ遺跡探索に出発だ。
早朝、身支度を整え、玄関ホールへと向かう。
そこには、すでに見送りのためにルーシアが待っていた。
「行ってくるよ、ルーシア」
「お気をつけて、ディオン様」
俺が声をかけると、ルーシアは深々と一礼した。
その表情には、いつもと変わらない穏やかな微笑みが浮かんでいた。
ただ、俺を見つめる瞳は妙に熱のある視線を含んでいる。
彼女も、心配してくれているんだろうか。
「大丈夫。必ず戻ってくるよ」
俺は微笑を返し、歩き出した。
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