64 有能メイドのルーシア2
「私、孤児院の出身なんです。名前もそこで付けてもらって……だから、自分の両親も本当の名前も……何も分かりません」
ルーシアが語り出した。
「生きていくために、この家のメイド職を紹介していただいて、自分なりに必死で働いてきました。当時のメイド長は優しいけれど厳しい方で、仕事のことを一通り鍛えていただいたんです」
俺は彼女の話を黙って聞いている。
初めて聞くルーシアの身の上話だ。
「私、もともと不器用で物覚えも悪くて……最初は叱られてばかりでしたけど、メイド長が根気よく指導してくださったんです。そうして働いているうちに、いつの間にか一通りなんとかこなせるようになっていって……」
ルーシアが述懐する。
「『相手が何を求めているのかを常に推察し、先回りして行動しなさい』『ただし出過ぎた真似はしないこと』この二つを特に徹底して叩きこまれました。そのメイド長もやがてご家庭の事情で退職されましたが、その教えが今も私の中に根付いています」
「俺はその当時のメイド長のことはよく知らないけど、良い人に指導してもらえたんだな」
「はい! すごく感謝していますし、尊敬しています」
ルーシアが嬉しそうに微笑んだ。
相手が何を求めているかを推察し、先回りして行動しつつも、決して出過ぎた真似はしない――それはまさに彼女の仕事ぶりそのものだ。
ルーシアの礼儀正しさや丁寧さ、洞察力や思考能力の速さは、今までの仕事から培われたものなんだろう。
そして、それらの能力を総合してSランクの評価として【鑑定】されたんだろう。
「あ……す、すみません、私ったら。こんな話、ディオン様には退屈ですよね? つい語ってしまって――」
「いや、すごく興味深い話だったよ。君の有能さの背景を知ることができて嬉しい」
俺は微笑んだ。
「振り返ってみれば、確かに君は出過ぎた真似をしない。だけど必要なことはすべて抑えて、迅速に処理してくれている」
「恐縮です」
「本音さ。君は優秀だよ」
「そんなふうに認めてもらえると……やりがいが出ます」
ルーシアが微笑んだ。
「そうだな。仕事って認めてくれる人がいるかどうかで、モチベーションが随分と変わるよな」
俺は前世を思い出しながら述懐した。
ブラック企業に勤めていた前世の俺には、そうやって認めてくれる人はいなかったけれど――。
だからこそ、俺自身はこうして他者を認め、賞賛を素直に送れるような人間になりたいと思う。
「これからも俺を支えてほしい。よろしく頼む」
「は、はいっ!」
ルーシアは頬を赤らめて一礼した。
「私、ディオン様にお仕えできて嬉しいです」
「俺も君がメイドとして側にいてくれて嬉しいよ」
実感を込めて言うと、自然とその言葉に【人心掌握】が乗った。
「ディオン様……!」
ルーシアは目をウルウルとさせていた。
俺の言葉は思った以上に彼女の心を揺り動かしたようだ。
「あ……お仕事のお邪魔をしては申し訳ないので、私はこれで……で、では……」
やけに照れたような態度を見せつつ、ルーシアは去っていった。
その可憐さが微笑ましくて、俺は彼女の後ろ姿をにっこりとした顔で見つめていた――。
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