62 心に余裕を
もし『心に余裕を持たせる』という暗示が成功したならば――。
それを発展させたら洗脳のような真似もできるんじゃないか?
俺は考えを巡らせた。
まあ、その可能性は今までも考えなかったわけじゃないが――正直、あまり考えないようにしていた。
良い使い方とは言えないからな、洗脳なんて。
とはいえ、『自分や相手の気持ちを落ち着かせる』という用途に限れば、別に悪い使い方じゃない。
少し試してみよう。
「ウェンディ、君は素晴らしい才能がある。その才能は今回の遺跡探索でも十分に発揮されるはずだ」
俺はゆっくりと言葉を区切り、彼女に言い聞かせるようにして語った。
「は、はい」
「期待しているよ」
「がんばります……!」
ウェンディは顔を紅潮させた。
ん?
これだと心を落ち着かせるというより、むしろやる気が上がっている感じか?
「冷静に自分の魔法を使いこなせば、絶対に大丈夫だ」
俺はなおも言葉を続ける。
「ディオン様もあたしに期待してくださってるんですよね? あたし、燃えてきました……っ」
ますます顔を紅潮させるウェンディ。
これでは『落ち着く』というより『気負っている』感じだ。
「いや、いつも通りでいいんだ。熱くなりすぎず、冷静に――な」
「はいっ!」
ウェンディは目をキラキラさせている。
うーん……難しいな。
相手の気持ちの方向性をある程度コントロールする、というのは簡単なことじゃなさそうだ。
『暗示』としての【人心掌握】については、もっと研究する必要がありそうだ――。
三人との会談を終え、俺は王立学院を後にした。
遺跡探索という予想外の話が出てきたが、会談自体はすごく有意義だったと思う。
あの三人と親睦を深められたのは、本当によかった。
というわけで、俺はいったん領地に戻った。
「ただいま」
「おかりなさいませ、ディオン様」
館に戻ると、いつも通りにメイドのルーシアが出迎えてくれた。
さあ、次の仕事だ。
俺は領主代理として頭の中を切り替え、タスクの整理にかかった。
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