58 領内の疑惑について返答する
俺の領内に魔界の扉があり、その向こうには『セフィロト』が存在している――。
この世界の出来事は基本的にゲーム本編に準拠しており、イベントのタイミングなどがズレることはあっても、ゲーム内の事象そのものは、この世界でもなぞられていると思う。
なら、ローゼルバイト領に魔界の扉があるのは、おそらく事実だ。
それを踏まえた上で、ヴィオラの問いかけにどう答えるか。
知らなかった、というのは簡単だ。
けれど、前回のメタシード襲来からそれなりの時間があり、何も気づかなかった――というのは無能の証明とみなされる可能性がある。
かといって、『知っている』ことを安易に答えるのは危険だ。
領内に魔界の扉が存在する――それは強大な力を己の領内で抱え込み、何かを企んでいるとみなされる可能性がある。
いや、実際にその可能性を見越して、ヴィオラは俺に鎌をかけているんだろう。
なら、俺の答えは――。
「その疑念は俺の方でも持っている。といっても、疑念が生まれたのは最近のことだ」
俺はヴィオラを見つめた。
「領内に異空間につながる場所がある――そうだな、仮にその場所を【魔界の扉】と呼称しようか。その扉が俺の領内にあるとなれば、緊急の対応を要する事態だ」
「ふん、お前の方でも把握していたのか」
と、鼻を鳴らすヴィオラ。
「本当に最近の話さ。最低限の情報を確認したうえで、王城に報告しようと考えていた。で、ここ数日の調査で疑念は、一定の確信に変わった。だから――この学院に来たんだ」
俺は声に力を込めた。
説得力が増すよう、ここで【人心掌握】のスキルを発動して、俺の言葉が全員の心を揺らすようにしておく。
「ほう? てっきり旧交を温めるためだとばかり思っていたぞ」
「それもあるさ。懐かしい君たちに出会えたのは本当に嬉しいよ。また会いたいと思っていたからね」
俺は爽やかに笑ってみせた。
「ディオン様……」
ウェンディの顔が妙に赤くなっているが、今はいいとしよう。
「ただ、本命の理由は違う。今言った事実を報告するために――その前段階としてヴィオラに相談したかったんだ」
これは、嘘だ。
ヴィオラが直球で俺に疑問を投げかけてきたため、急遽こしらえた嘘の理由だった。
だけど【人心掌握】を使っているし、話の筋自体は通っているから、これを『でっちあげの理由』だとは判断されないだろう。
「君の質問はまさに渡りに船だったよ。いや――そこまで分かっていて質問したのか? 君は切れ者だからね」
と、ヴィオラを立て、俺の回答はいったん終了だ。
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