56 魔物と領地について
「ところで――その後、王都では魔物は出ていないのか?」
俺は三人にたずねた。
王都にヴィオラたちを残してきた手前、少し気になっていたのだ。
「たまに出没するようだ。まあ王立騎士団や魔法師団が退治しているが」
と、ヴィオラ。
「……そうか」
王都に常駐する騎士団や魔法師団の実力は高い。多少の魔物なら問題なく対処できるだろう。
「お前の領内ではどうだ? 魔物は出ていないのか?」
たずねるヴィオラの視線が鋭くなった。
顔には笑みが浮かんでいるが、よく見ると目が笑っていない。
なんだ――?
どこか、俺を探るような目。
俺が何か隠しているとでも思っているのか?
……まあ、隠していることだらけだが。
「ああ、出ていない」
俺は平静を装って答える。
内心では、メタシードの件が気になっていたが、ここでそれを話すわけにはいかない。
「よかったじゃない。ワインの開発をしているんでしょ? 魔物に荒らされたら台無しになるものね」
ジュリエッタが安堵したように微笑んだ。
「えっ、ワインの開発?」
ウェンディが、ぱちくりと目を丸くした。
栗色の瞳が興味深そうに俺を見つめる。
「ああ。俺の領内は恥ずかしながら豊かじゃなくてね。それを打破すべく特産品の開発に取り組んでいるんだ」
俺は説明した。
「わあ、すごい。すっかり領主様みたいですね」
ウェンディがキラキラした目で俺を見つめた。
彼女は一見すると地味な容貌だが、そこはゲームの主人公なので、いわゆる『磨けば光る』タイプだ。
こうして向き合っていると、その魅力が強烈に伝わってくる。
特に笑顔はハッとするほど惹きつけられるものがあって、心臓を鷲掴みにされるっていうのはこんな感じなんだろうかと思ってしまった。
「……ちょっとディオン。今、ウェンディに見とれてたでしょ」
ジュリエッタがきつい目をして俺をにらむ。
「えっ!? そ、そんなことないって」
俺は慌てて否定する。
だが、ジュリエッタは納得していないようだ。
「むー……」
ぷくりと頬を膨らませるジュリエッタ。
こういう顔をするの、可愛いよな。
「はははは、ジュリエッタのこんな一面が見られるとはな」
ヴィオラがニヤニヤしながら面白そうにこちらを見ている。
完全に楽しんでいるな、この王女様は。
「っ……! ち、違うってば、ヴィオラ! 私はただ――」
ジュリエッタが慌ててヴィオラに反論しようとするが、言葉がうまく出てこないようだ。顔が真っ赤になっている。
「あ、あの、私は地味だし、ディオン様が私に見とれるなんてことはないとも思うよ、ジュリエッタちゃん」
ウェンディが申し訳なさそうに二人をとりなす。
健気で優しいのは、まさにゲーム通りの性格だった。
「……あなたはあなたで自分の魅力に気づいてないタイプよね。絶対可愛いのに。男は、あなたみたいなタイプに弱い気がするのよね……ぶつぶつ」
ジュリエッタは妙に険しい表情のまま、小声で何かをつぶやいている。
なんだか微妙に修羅場めいているのは、気のせいだろうか――。