55 俺と婚約者、王女、そしてヒロイン
俺は目の前にいる三人の美少女――ジュリエッタ、ヴィオラ、そしてウェンディと談笑していた。
「じゃあ、ディオンは復学するわけじゃないのね?」
ジュリエッタが俺に問いかける。
彼女の淡いピンク色の髪飾りが、日差しを受けてキラキラと輝いている。
先日、彼女に送ったものだ。
ちゃんと付けてくれているのを見ると、やっぱり嬉しい。
「ああ、領内の仕事で忙しくてな。父上は病床のままだし、俺が切り盛りしなきゃいけない」
本当は学院に戻りたい気持ちもあるが、今は領地経営が最優先だ。
「なんだ。お前と一緒に学院に通えたら楽しいと思ったのに」
ヴィオラが残念そうに唇をとがらせる。
「俺も君と一緒に学院生活を送ってみたかったよ、ヴィオラ」
俺は微笑んで返す。
「ん? 婚約者がいる前で私を口説いているのか?」
ヴィオラの口元に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
「はは、君は魅力的な女性だからね」
ヴィオラの軽口に、俺も軽口で返した。
……こんなやり取り、前世では絶対しなかったな。
だけど美貌の悪役令息ディオンとして転生してからは、こういう掛け合いも板についてきた気がする。
「……冗談で言ってるのよね、ディオン?」
不意に、ジュリエッタの声が妙に低くなった。
ジト目で俺を見つめている。
しまった。ヴィオラは彼女にとって大切な学友だろうし、いくら冗談とはいえ、不快にさせてしまったか。
俺の配慮が足りなかったな。
謝ろうと思ってジュリエッタに向き直ったところで、
「違う違う。ジュリエッタは焼きもちを焼いているだけだ」
ヴィオラがくすくすと笑った。
「ヤキモチ……っ!?」
ジュリエッタが顔を真っ赤にする。
「ち、違うってば! わ、私は、そんな……っ」
言いながら、ジュリエッタはうつむいてしまった。
耳まで赤くなっているのが見える。
ちょっと照れ過ぎじゃないか、ジュリエッタ?
不審に思った俺は、そこで彼女の隣に座るウェンディと目が合った。
「……っ!」
ウェンディは、なんだか妙にドギマギしている様子だ。
視線が合うと、慌てたように逸らされてしまう。
……そういえば、前回会ったとき、俺は彼女の植物魔法の覚醒イベントみたいなものを起こしてしまったんだったな。
しかも、彼女の心に響くような言葉を【人心掌握】スキル付きで言ってしまった。
そのせいか……? 彼女のこの反応は。
俺は彼女に軽く微笑みかけたつもりだったが、ウェンディはさらに顔を赤くして俯いてしまった。
うーん、どうしたものか。
「まったく、あらためて――隅に置けない男だな」
そんな俺たちの様子を見て、ヴィオラが楽しそうに笑う。
「遊び人だという噂を聞くが、私たちのことも全員口説き落とすつもりじゃないだろうな」
「は、はあっ?」
ヴィオラの言葉に、ジュリエッタが顔を真っ赤にして立ち上がった。
すごい剣幕だ。
「ち、ちょっと、ディオン、二人に手を出したら許さないからね!」
「ち、違うって!」
俺もさすがに慌てて両手を振った。
なんでそうなるんだ……。
「ヴィオラも妙な冗談は言うなよな」
俺は苦笑しながらヴィオラを軽くにらむ。
「はは、少し口が過ぎたか。許せ」
悪びれもせず笑いながら、ヴィオラは軽く頭を下げた。