54 王立学院を訪れる
その日、俺は王立学院を久しぶりに訪れた。
ディオン・ローゼルバイトはこの学院を半年ほど前に退学している。
……俺の前世の記憶が目覚める前の話だ。
もともと彼は放蕩貴族であり、王立学院にもロクに通っていなかった。
まあ、ディオン記憶を探ったところ、彼の言い分としては『つまらない授業ばかりで退屈』だったらしいが……。
で、ただでさえ欠席が多かったうえに必要な単位取得が見込めなくなったため、留年よりも退学を選んだようだ。
本来、学院に通うのは勉学もそうだが、何よりもここに通う王族や貴族の子息と交流し、人脈を作るというのが非常に重要だ。
貴族社会で生き残るには、家柄だけじゃなく、繋がりも武器になるからな。
ただ、本来のディオンはそういったことに興味がなく、学院に通っていると遊び歩くための時間がなくなるから嫌だったんだろう。
……本当にどうしようもない奴だ。
が、俺は違う。
今後、ローゼルバイト家が没落するルートを阻止するために、人脈作りは重要だ。
これまでは領内の窮状を救うために、バルゴやセレスティア、ミリィ、クリスティナといった有能な人材を集め、ワイン事業や土壌改良など、色々と動き回っていたが、それだけでは足りない。
内政だけじゃなく、中央との繋がりも強化しなければ、いざという時に詰む可能性がある。
王立学院への復学――となると、領地の内政に割く時間がなくなるから難しい。
正直、今の領地を放置して学生に戻るなんて選択肢はない。
だが、父や学院の理事長らに相談したところ、ときどき見学に通う程度なら許可をもらえるようだった。
だったら、その機会を活かすべきだろう。
時間を作っては学院を訪れ、少しでも人脈作りを進めようと思う。
今日がその第一歩だ。
俺は没落と破滅の運命を変えるために、やれることは全部やる――。
受付で許可証を貰って校内に入った。
学院内は活気があふれていた。
昼休みの時間帯を選んできたから、あちこちで生徒たちが行き交っている。楽しそうな笑い声も聞こえる。
まずは在学中にディオンと交流があった生徒を探すか――。
いや、あいつの交友関係なんて、ろくなものじゃなかったはずだ。
遊び仲間ばかりで、真面目な付き合いなんて皆無だっただろう。
「となると、新規開拓か。ヴィオラに紹介してもらうのも一手だよな――」
などと考えながら歩いていると、食堂のところで見知った顔を見つけた。
いずれ劣らぬ三人の美少女たちだ。
淡いピンクの髪飾りをつけた、俺の婚約者の貴族令嬢ジュリエッタ。
真紅のドレスが似合う、勝ち気な王族のヴィオラ姫。
そして、栗色の髪をした【花乙女の誓約】の主人公でもあるヒロイン、ウェンディ。
三人はテーブルで楽しげに談笑している。
ジュリエッタが何かを話して、ウェンディが驚いたように目を丸くして、ヴィオラが面白そうに笑っている。仲が良さそうだ。
俺はそこに歩み寄り、声をかけた――。