51 主人公ウェンディ・ラミルの学院生活2(ウェンディ視点)
「あれ? ジュリエッタちゃん、髪飾り変えた?」
ウェンディは彼女の髪に真新しい貝殻の髪飾りが付いていることに気づいた。
淡いピンク色の、可愛らしいデザインだ。
「えっ? ああ、これ――うん、まあね。ちょっと……その、彼が……えへへ」
ジュリエッタは髪飾りに触れ、はにかんだ。
「彼?」
ウェンディが首をかしげる。
「ディオンよ」
ジュリエッタは言って、口元をにやけさせた。
「ジュリエッタちゃん……?」
普段は常に凛としている彼女が、こんなにやけた笑顔を見せるのは珍しい。
というか、初めて目にした気がする。
(ディオン様が……ジュリエッタちゃんに……)
ウェンディの胸がチクリと痛んだ。
「ほう」
隣にいたヴィオラがニヤリとした。
「ディオン・ローゼルバイト……そういえば、お前の婚約者だったか」
「ええ……ふふ」
その言葉に、ジュリエッタの頬がさらに赤く染まった。
やはり、どう見ても嬉しそうだ。
「以前は婚約者に対して不満げだったというのに、随分と変わったな」
ヴィオラが面白そうに指摘する。
「ま、まあ……実際に接してみると、別に評判とは違うっていうか、聞いていた『悪の令息』って感じじゃなかったから……」
照れたように言いつくろいながらも、ジュリエッタはにやけっぱなしだ。
「ああ。それは私も思った」
ヴィオラがうなずく。
「えっ、ディオンに会ったの、ヴィオラ?」
ジュリエッタが驚いたように声を上げた。
「お? なんだ、嫉妬か」
ヴィオラがからかうように笑う。
「…………」
ジュリエッタの顔が曇った。
「……もしかして、本当に嫉妬しているのか? 安心しろ、お前が思っているような間柄じゃないし、そういう会話はしていないからな」
ヴィオラは軽い調子で言ったが、ジュリエッタは心配そうな顔をしている。
「ヴィオラ、綺麗だから心配なのよ……」
ジュリエッタが小さくつぶやく。
「おいおい、その口ぶりだとお前はディオンにベタ惚れのように聞こえるぞ?」
「っ……!」
ジュリエッタが息を呑む。
「嘘、ジュリエッタちゃん、そうなんだ……」
(やっぱり……ジュリエッタちゃんは、ディオン様のことが……)
ウェンディは自分の胸の痛みから目をそらそうとした。
そこで、自分がなぜここまで胸を痛めているのだろうと驚く。
これでは、あたしがディオン様のことを――。
いや、彼には婚約者がいるのだ。
たった一度会っただけの彼に、自分はほのかに憧れているだけ。
それ以上の感情はない、はずだ。
そう自分に言い聞かせる。
と、
「まあ、確かにいい男ではある」
ヴィオラがニヤリとする。
「実は、この間の魔物騒動で知り合ったんだ」
魔物騒動――。
王都に魔物が現れたという、二か月ほど前の出来事だ。