50 主人公ウェンディ・ラミルの学院生活1(ウェンディ視点)
その日、王立学院の教室で――。
「うわー、すごい!」
「ラミルさん、こんな魔法が使えるんだ?」
驚きの声が次々に飛び交った。
注がれる視線に囲まれながら、ウェンディ・ラミルは小さく頷く。
「うん、いい感じで生長したね」
彼女の前で、大輪の花が咲いている。
さっきまで萎れていたそれは、今や瑞々しい命に満ち、色鮮やかに花開いていた。
そう――ウェンディの魔法がそれを生み出したのだ。
彼女の魔法は【植物魔法】。
二ヶ月ほど前に、その力が劇的に強まった。
それまでも、わずかに芽生えてはいたのだが、突然――まるで何かが弾けるようにして力が覚醒した。
理由は分からない。
ただ、もしかしたら、そのときに出会った少年――ディオン・ローゼルバイトが、彼女に何らかの力を与えてくれた気がしていた。
特段の根拠はないのだが、ウェンディはなぜかそれに確信めいたものを感じており、それどころか運命とすら思っていた。
以来、彼のことが頭から離れない――。
それはさておき、彼と出会って以来、【植物魔法】は、朽ちかけた花を蘇らせ、果実を甘く実らせ、さらには植物の性質を【変質】させることさえできるようになっていた。
彼女はその力を平和的に使っている。
例えばこうして萎れた花を救ったり、果物をより美味しく育てたり。
そう――彼女にとってこの魔法は、「平和に使うべきもの」だった。
……だが。
(分かってる。戦闘にも、軍事にも使える……応用次第で、どれだけでも)
心のどこかで、彼女はそのことに気づいている。
この力は――危うさも孕んでいる、と。
だが、今は。
(今は、これでいいんだ……あたしは、この魔法を――)
優しく、穏やかに使いたい。
そう思いながら、咲いた花にそっと触れた。
昼休み。
ウェンディは中庭のベンチで、ジュリエッタとヴィオラと話していた。
「【植物魔法】か……随分とレアな魔法を持っているんだな」
ヴィオラが腕を組みながら感心したように言う。
彼女はこのグレイス王国の王女であり、平民出身のウェンディからすれば、まさしく雲上人だった。
「ええ、まあ……」
ウェンディが控えめに答えると、隣のジュリエッタが微笑んだ。
「彼女はその才能を認められて、王立学院に特待生として招かれたのよ、ヴィオラ」
それを聞いて、ヴィオラがにやっと笑う。
「お前も普通に話してくれていいんだぞ、ウェンディ」
「いえ、姫様にそんな……恐れ多いです」
「姫様はよせ。ここではただの級友だろう」
気軽な口調の中に、どこか柔らかさがある。
「そう……だね、ヴィオラ様――ヴィオラ、ちゃん」
ウェンディは少し戸惑いながらも、小さくうなずいた。