5 俺の剣技
俺は木剣を手にして前に出た。
「ディオン様が、僕と――?」
バルゴの表情が引き締まる。
「遠慮は無用だ」
俺はニヤリと笑った。
「君が騎士団に入れば、いずれ俺の身を守ってもらうことになるかもしれない。だから俺自身の手で確かめたいんだ。君の力を」
と、木剣を構える。
「全力で来てくれなければ確認ができないからな。もう一度言うぞ。『遠慮は無用だ』」
「……承知しました」
バルゴはふたたびさっきのような極端な前傾姿勢を取った。
こいつ独特の、獣のごとき構え。
「ナーガル、合図を頼む」
「……はっ」
ナーガルがうなずき、右手を上げた。
俺とバルゴの間でピリピリとした空気が漂う。
そして。
「――始め!」
ナーガルが右手を振り下ろす。
「はあああっ……!」
バルゴが前傾姿勢からジリジリ近づき、超速で下段からの一撃を放つ。
かしいん。
その剣を、俺は狙いすました一撃で跳ね飛ばした。
次の一撃で、バルゴの喉元に木剣の切っ先を突きつける。
「勝負あり――だな」
「そ、そんな……」
バルゴは呆然としていた。
「君の才能は確かにすごい。ただ、まだまだ途上だ」
俺はバルゴに言った。
彼の剣術レベルがSなのは間違いない。
ただ、それでも彼は農民だ。
剣での対人戦闘の経験なんてゼロに等しい。
一方の俺も実際の経験はないが、この体には――ディオンの記憶には、その経験が山のように刻まれていた。
そしてディオンの剣術レベルはA+。
未経験に近いS相手なら、俺の方が勝る。
「上には上がいる、ということだ」
「くっ……」
バルゴの表情に悔しさが滲む。
だが、その目には――それ以上の光が宿っていた。
「今回の勝負は経験の差が出ただけだ。それとナーガルとの勝負で、君の太刀筋を見せてもらったのが大きかった」
俺は微笑みながら彼の肩に手を置いた。
「あくまでも才能で勝るのは君だ。だから君には――いずれ俺を超えてもらう」
「僕が……?」
「当然だ。俺は騎士ではない。剣を扱うのは君に任せたい」
俺はにっこりと笑った。
「期待しているぞ、バルゴ」
「――はい!」
バルゴは力強くうなずいた。
きっと、彼の剣の道はここから本格的に始まる。
そして、いずれは頼もしい俺の護衛騎士の筆頭になってくれるだろう。
俺は次の人材探しへと移った。
領地改革を成し遂げるためには、強い騎士がいるだけではどうにもならない。
当たり前だ。
商才を持った者や、技術者なんかも欲しいな。
もちろん、他にも欲しい人材はいくらでもいる。
有能な人間はいくらいても多すぎるということはないからな。
さっそく今日も視察がてら【鑑定】を発動しながら人材探しだ。
といっても、有能な人間なんてそこらに転がっているわけもない。
実際に見てみると、八割くらいの人間は並か、それ以下だ。
それより少し上が二割近く。
そのどちらでもない、非常に優秀な人間――SやAランクの能力を持った者となると、滅多にお目にかかれない感じだった。
初日の視察でバルゴに出会えたのは、本当に運が良かったんだな。
「……ん?」
などと考えながら大通りを歩いていると、一人の少女が前方から歩いてきた。
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