49 俺の軌跡と未来への展望
静かで澄み渡った夜の空気が心地よい――。
俺は書斎で深く腰掛け、思案にふけっていた。
机の上には領地の地図や収支報告、人材リストや事業計画が山積みになっている。
「領地経営……前世ではまったく経験がなかったけど、少しずつ形になってきたか……?」
この世界に転生して、もうすぐ二か月になる。
「たった二月の間に、色々あったな」
最初はただゲーム本編通りにディオンが没落することを避けようと――それだけを考えていた。
【鑑定】と【人心掌握】という二つのスキルを使いこなし、さまざまな人材を集めようと尽力してきた。
まずは民に声をかけた。
恐れを向けられていた『悪役令息』としての自分を、言葉で変えようとした。
さらに視察の中で出会った、少年バルゴ。
剣術Sランクという、とんでもない逸材だった。
次は、町で出会った錬金術師セレスティア。
挙動不審でリアクションが過剰な変わり者だけど、才能は確かだった。
彼女の成果である錬金肥料が成功すれば、ワイン事業を根底から支えてくれそうだ。
商才Sの少女・ミリィは底抜けに明るくて強かで、誰よりも前向きだ。
ワインという特産品の流通を任せる相手として、これ以上の適任者はいないと思えた。
さらにクリスティナもいる。
農業の才と人望を兼ね備えた、頼れる姉貴分であり、その農業の才やカリスマは驚くべきことに初期よりも成長している。
彼女の手で土壌改良は着実に進み、ブドウ栽培の希望が見えてきた。
そして――婚約者のジュリエッタ。
かつてのディオンが彼女に吐いた暴言の数々を、俺は少しずつ、でも確実に塗り替えていく。
「ここまで来れば、ディオンが没落する可能性はかなり減ってきたんじゃないか……?」
ふと、思う。
ゲーム本編におけるディオンの没落は、主に彼自身の放蕩と、それによっ
て領地の経営が加速的に悪化したからだ。
けれど、俺は領地経営の悪化を食い止め、経営を改善するために動いている。
二の轍は踏まないだろうし、むしろこの領地が豊かになるような活躍をしたい。
そして、もう一つはジュリエッタとの関係だ。
ゲーム本編では傲慢なディオンに嫌気がさした彼女から婚約破棄を突きつけられてしまう。
けれどこの世界の俺は、そんな乱暴な真似はしない。
没落と婚約破棄。
ディオンがどこまでも堕ちていく発端となる二つのイベントはすでに解消された――いや、ほとんど解消済みといってもいいだろう。
なら、次の一手だ。
「やっぱり――行くべきだな」
俺は決意を込めて告げる。
「王立学院に」
そしてゲームの主人公であるウェンディとの関係も、もっと良好なものを築かなくては――。