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46 クリスティナの過去

「クリスティナ、もう少し話す時間はあるか?」


 俺は彼女のことをもっと知りたくなった。


 なぜ才能が伸びたのか。


 他の人間でも同じ現象が起きるのか。


 もし起きないなら、なぜ彼女は特別なのか。


 それらのヒントをつかみたい――。


「ん、なんだい? あたしを口説こうっていうの?」


 流し目を送るクリスティナ。


「はは、確かに君は魅力的な女性だね」


 俺は【人心掌握】のスキルを乗せて、彼女に言い放った。


「――へえ」


 クリスティナの目が爛々とする。


 頬がかすかに赤らんでいた。


 葉が浮くようなセリフを言ってみたのだが、意外と満更でもなかったらしい。


「それはさておき、今は君の農業の手腕について聞きたいのさ」

「な~んだ、残念」

「土壌改良は順調みたいだな。俺は農業については詳しくないが、土の感じが短期間で明らかに変わっている」


 俺はクリスティナに言った。


「こういうのは、もっと時間がかかるものだと思っていたよ」

「いや、普通は時間がかかるものさ。あんたの認識で合ってるよ」


 微笑むクリスティナ。


「その辺りは色々なやり方があるのさ」

「色々なやり方……」


 俺は彼女を見つめた。


「誰かに教わったのか?」

「んー……自分で調べたことの方が多いかな」


 クリスティナはニヤリとした。


「数年前まで、あたしは他の土地にいたんだ。そこでも農家をやっていた」

「ここの土地の人間じゃなかったのか」


 俺は彼女を見つめる。


「だね。で、ある年にひどい飢饉があった。雨が全然降らなくて、作物も育たなくて……周りの農家もみんな税が払えないようなひどいありさまだった」


 述懐するクリスティナ。


「あたしはその状況をなんとかしたくてねぇ……みんなが悲しんだり絶望しているのを見ていられなかった。で、都市部の図書館に通って、方法を調べたのさ」

「図書館……?」

「古書ばかり集めた書架に、古代の栽培法や農業技術を書いた本を見つけてね。誰も読んでいないのか、ホコリをかぶっていて……あたしは藁にも縋る思いで、それを読み漁ったのさ」


 言って、クリスティナは微笑んだ。


「で、その知識をベースにベテランの農家の人たちと色々と話したり、議論したりしたよ。あたしは人見知りしないから、とにかく色んな人に聞きまくったんだ。それで――試しては失敗して、またやって……」


 クリスティナは遠い目をして語った。


 明るい調子で話しているけど、実際には苦労の連続だったんだろうな。


 それが容易に推察できる。


 そして、そんな苦労を表に出さないだけの精神の強さが、彼女にはあるんだろう。


 それが農業の才能だけじゃなく人望にもつながっているはずだ。


「何年かして、少しずつだけど成果が出てきて……気づいたら周囲の農民たちが、あたしの畑を手伝いに来るようになっていたんだよ。いつの間にか『姉御』なんて呼ばれるようになったっけ……」

「それは他の村の話だよな? どうして、こっちの土地に来たんだ?」

「……ま、その辺は色々さ。上手くいくと、今度はいざこざが増えることもある、ってね」


 クリスティナが悪戯っぽく笑う。


 嫉妬や羨望、あるいは分け前争い――そんなところだろうか?


「……分かった。そこは詮索しない。とにかく、君には過去の経験と知識の裏打ちがあり、それが今回の仕事に活きてることは分かった」


 俺は彼女の手を取り、熱を込めて言った。


「君には期待している。引き続き力を貸してほしい」

「ふふ、あんたみたいな美少年に言われたら、あたしも張り切っちゃうよ?」

「モチベーションはなんでもいいさ。頼むよ」


 俺はにっこりと笑った。


「この村が――今度は君にとって楽しい居場所になることを願っている」

「ん? 楽しいよ。とりあえず今はね」


 クリスティナが微笑む。


「あんたみたいな美少年の貴族にこうして手を握ってもらえたんだからね」

「あ……す、すまない」

「あたしは嬉しかったよ」


 俺は慌てて手を放そうとするが、クリスティナの方から手を握り返してきた。


「あたしからも――引き続きよろしくね」



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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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