44 推し活
「よくやってくれた、ディオン。あらためて礼を言うぞ」
王城の一室でヴィオラが俺に微笑んだ。
「お役に立てて何よりだよ」
俺も微笑を返す。
それから体に痛みが走り、顔をしかめた。
「うぐぐぐ……」
「相当に痛そうだな。少し休んでいけ」
ヴィオラが心配そうに声をかけた。
「いや、しかし……」
「腕のいい治癒魔術師を呼ぼう。私の命を救ってくれた恩人をこのまま返すわけにはいかんよ」
微笑むヴィオラの顔は優しかった。
俺は、お言葉に甘えることにした。
「……楽になってきた」
まだ痛みが完全に消えたわけじゃないが、もうほとんど気にならない。
激しい動きをしなければ、少なくとも歩いたり走ったり程度はできそうだ。
まさか、こんな短期間に治るとは――。
「よかったです」
ヴィオラが呼んだ治癒魔術師がにっこりと笑った。
二十代半ばくらいの明るい雰囲気の美女だ。
「ヴィオラ様を救ってくださったこと、あたしからもお礼を言わせてください」
彼女が頭を下げた。
「あたしのヴィオラ様を」
「おいおい、お前のものになった覚えはないぞ?」
「すみません、ヴィオラ様はあたしの『推し』なので。つい言葉に熱が入ってしまいました」
ぺろりと舌を出す彼女。
「この世界にもあるんだ、推し活……」
思わず口に出していた。
こんな異世界で『推し』なんて言葉を聞くとは思わなかったが――。
いや、案外、そういう感情は世界を超えて共通なのかもしれない。
「まあ、推してくれるのはありがたいが、度を越すなよ?」
ヴィオラが軽く釘を刺すと、
「もちろんですっ!」
彼女は敬礼のような仕草をして、ぱっと明るい笑顔を浮かべた。
そのやりとりを見ていて、ふと口をついて出た。
「俺も、そんなふうに思ってもらえるような領主を目指さないとな」
自然とそんな言葉が口をついていた。
「応援してますよ、ディオン様!」
彼女は満面の笑みで言ってくれた。
まっすぐ俺を見つめる彼女になんだか照れくさくなった。
「なんだ、ディオンのことも推すのか?」
「ふふ、推しは何人いてもいいんですよ、ヴィオラ様?」
彼女がにっこりと笑った。
ふと彼女を【鑑定】してみる。
案の定というべきか、治癒魔法:Sと出た。
――こうして俺はヴィオラと親交を深め、それから王都を後にした。
魔物対策については王都の方でも本格的に進め、方策を検討していくそうだ。
俺が伝えるべきことはすべて伝えたし、また動きがあれば、俺にも教えてもらえることになった。
ヴィオラは別れ際に、
「いい友人ができた。お前とはまた会いたいものだな」
「ああ、ぜひ」
「私は、普段は王立学院に通っているんだ。そちらにも、よかったら遊びに来てほしい」
そんなやり取りをした。
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