38 王都の魔物
王都の大通りを抜け、さらに城門を越えた先、俺たちは辺境に位置する外れの区域にやってきた。
馬車を飛ばしてきたため、ここまでおよそ二時間ほどの行程だ。
同行しているのはヴィオラ、そして彼女を護衛する精鋭の騎士たちだった。
騎士たちはヴィオラを止めようとしたが、彼女がまったく聞き入れる気配がなかったため、半ば無理やり付いて来たのだ。
要するにお目付け役である。
「ヴィオラ様。あまり一人で突っ走らないでください」
「ただ魔物を討つだけだ。暴走しているつもりはないぞ?」
きっぱりと言い切るヴィオラの目は、まるで獣のように獰猛な輝きを宿していた。
「……王女がみずから魔物討伐に出向くのは、立派に『暴走』ですよ」
「はは、お前は忌憚のない意見が言える奴だな。気に入ったぞ」
「魔物退治は、まず王国騎士団に任せるべきでしょう」
「嫌だ」
ヴィオラは子どもみたいな態度でそう言い放った。
「ヴィオラ様……」
「だって、そいつらの誰よりも私の方が強い」
「だとしても――実戦では何が起こるか分かりません」
「ならば、お前が私を守れ」
ヴィオラが俺を見つめた。
「いい騎士っぷりを見せてくれ、ディオン。そうなれば――もしかしたら私はお前に惚れてしまうかもしれんぞ?」
「まったく……」
俺はため息をついた。
「なんだ、結構本気で言ったのに。そんな態度では傷つくではないか。私の乙女心が」
「乙女心を主張したいのなら、なおさら魔物退治を遠慮してもらいたいものですね」
「まったく……」
お返しとばかりに、今度はヴィオラがため息をつき、ニヤリとする。
俺も少し笑ってしまった。
魔物が出現したという報告があった地点まで到着し、俺たちは馬車を降りた。
周辺を警戒しながら進む。
――と、
「誰かいるぞ!」
騎士の一人が前方を指差した。
「うう……」
老人が道端にうずくまっている。
どうやら負傷しているようだ。
「大丈夫か?」
俺は慌てて駆け寄った。
その瞬間、
「があああああああああっ!」
いきなり立ち上がった老人は、その姿を魔物へと変貌させた。
全身が黒い、毛むくじゃらの人型――。
「くっ……」
慌てて剣を抜こうとするが、間に合わない!
「下がれ、ディオン!」
ヴィオラの声が響いた。
ざんっ!
次の瞬間、魔物の首が刎ね飛ばされている。
「あ……」
まさしく、神速。
一瞬にして俺の元まで間合いを詰めたヴィオラが、一撃で魔物の首を切断したのだ。
「なんて速さだ――」
俺は戦慄した。
先ほど、騎士団を前に見せた剣技もすさまじかったが、今のは一段とすごい。
おそらく覚醒時のバルゴ以上だろう。
世の中、上には上がいる――。
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