33 天才騎士、さらなる覚醒
「はあああああっ!」
バルゴは獣のように低い姿勢から、まさに獣以上の速度で駆け抜け、剣を振るう。
すれ違いざまに二体目のの【ギガントウルフ】をバラバラにし、さらに加速。
その先にいた三体目を頭から尾までを両断する。
残りは、二体。
ぐるるる……!?
【ギガントウルフ】たちは、明らかにおびえていた。
全身に赤い返り血を浴びつつ、凄絶な表情で魔物を狩る少年騎士に。
異様にギラギラとした眼光に。
そして、その人間離れした強さに――。
――数分後、戦いは終わっていた。
「つ、強い……強すぎる……!」
俺は呆然と立ち尽くした。
バルゴが強いことは知っているし、才能があることも当然知っている。
騎士隊での訓練で、その片鱗を見せてもらった。
けれど、今日の戦いぶりはそんな次元ではなかった。
いよいよ彼の天才性が本格的に目覚めたのか。
【ギガントウルフ】たちに追い詰められた戦況が一種のトリガーとなって、バルゴを一気に覚醒させたんだろうか。
「ディオン様」
バルゴが俺の前にやって来た。
「とりあえず【ギガントウルフ】は全部討ちました。次の指示を」
「あ、ああ……」
俺は彼を見つめた。
返り血で全身真っ赤だ。
血や肉片を浴びて、すさまじい匂いを放っている。
「……おかげで助かった。礼を言うよ」
「俺は、あなたの騎士ですから。あなたを守るのは当然のことです」
と、バルゴ。
「とりあえず返り血を拭け」
俺は微笑んだ。
若干ぎこちない笑みになってしまったかもしれない。
正直に言って、俺は彼から得体の知れないものを感じていたのだ。
「す、すごかったな、お前……」
「たった一人で魔物五体をあっさり倒すとは……」
と、他の騎士たちも驚きつつ、彼を賞賛している。
「いえ、まだまだです」
タオルで血を拭きながらバルゴが言った。
「俺は……僕は、もっと強くなれそうな気がするんです」
「バルゴ……?」
「ディオン様が魔物に殺されるんじゃないかと思ったとき、僕の中で何かが弾けるような感覚がありました。頭の中が熱く燃えたぎるような……だけど、頭の片隅は妙に覚めているような……熱感と冷感が同居しているような感覚、というか」
バルゴが説明する。
「そうしたら、普段の自分よりもずっと速く動くことができました。それに腕力も上がったような感じがして……気が付いたら、魔物を全部倒していました」
「――そうか」
そういう感覚は、俺には分からない。
天才ならではの体感なんだろうか。
「だけど、それは偶発的に出た力です。僕は、それをコントロールできるようになりたい」
バルゴが熱を込めて語る。
「さっきの力を自由に引き出せるようになれば、僕はもっとディオン様の役に立てますよね?」
「バルゴ……」
「僕を見出してくれたディオン様のためにも、僕……もっとがんばります」
さっきまでのギラついた眼光はなく、今のバルゴの瞳には少年らしい純粋な光が宿っていた。
それでも――。
俺は依然としてバルゴからは得体のしれない何かを感じていたのだった。
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