32 逆境の中で
うおおおおおおおんっ。
森の中から、さらに四体の【ギガントウルフ】が現れた。
最初に出てきたやつと合わせて、全部で五体――!
「まずいぞ……」
一体でも手こずっていたのに、一気に五倍の数に襲われたら――。
ここは一時撤退を考えるべきか?
だが、
「うううう……」
「ぐ……ああ……」
苦鳴を上げて倒れている三人の騎士が目に入る。
撤退を選んだ場合、彼らはの状態では逃げられないだろう。
見捨てるわけにはいかない。
だけど、このまま立ち向かったとして全滅する危険だってある。
どうする――?
俺は歯ぎしりをした。
ゲームではこんな状況はない。
適切なコマンドを選び、ただ倒すだけだ。
たまに敵が強くて負けることもあるけど、その場合だってセーブ地点からやり直すだけ。
と――、
があうっ!
一体の【ギガントウルフ】がいきなり倒れている騎士に跳びかかる。
「危ない!」
俺は反射的に飛び出していた。
理屈や感情じゃない。
本能だった。
助けなきゃ、という気持ちが、体を勝手に動かしていた。
飛び出した途端、【ギガントウルフ】と目が合った。
殺気と攻撃衝動に満ちた眼光――。
「っ……!」
一気に恐怖心が吹き上がる。
けれど、傷ついた騎士たちを守るには、俺が体を張るしかないんだ。
「うおおおおおおおおっ!」
叫びながら剣を突き出す。
俺だって剣術ランクAなんだ。
能力的には一流の剣士のはず。
その能力を発揮して、なんとかこいつを――。
「ぐあっ!」
けれど【ギガントウルフ】の反応は早い。
俺の剣が奴に届くより先に、奴の爪が俺の肩を切り裂いた。
痛みで剣を取り落としてしまう。
そこへ【ギガントウルフ】がトドメの一撃を放とうと俺に跳びかかる――。
あ、殺される……。
あっけないな、と妙に冷静な自分がいた。
俺に向かって跳びかかる【ギガントウルフ】の動きがスローモーション映像のように見えた。
この一瞬の後、俺は奴の爪で切り裂かれ、息絶えるだろう?
俺は呆然と立ち尽くす。
ざんっ!
けれど、その瞬間はやってこなかった。
「えっ……?」
どさり。
【ギガントウルフ】の首が地面に落ちる。
鮮血がシャワーのように振り注いだ。
その赤い雨の向こうに、一人の騎士が立っている。
「ご無事ですか、ディオン様……!」
「バルゴ!」
「あなたは、俺が守ります」
バルゴの顔から普段のおとなしそうな雰囲気が完全に消えている。
以前にも見せたことがある猛々しい戦士の顔だった。
「そして、もうこれ以上、誰も傷つけさせない!」
言って、バルゴは走り出す。
その速度は【ギガントウルフ】の敏捷性すらも凌駕した、まさしく獣の動きだった――。
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