30 序盤のイベント
と、そのときだった。
がちゃっ!
「ディオン様、大変です!」
ノックもせずに部屋の扉がいきなり開けられた。
息を切らして入ってきたのは美少女メイドのルーシアだ。
「どうした、ルーシア?」
「あ、あの、えっと……あ、すみません! ノックもせずに!」
「いや、いいんだ。非常事態なんじゃないのか?」
慌てたように謝るルーシアに微笑み、俺は先を促した。
「教えてくれ」
「は、はい、あの……領内に魔物が出た、と見張りの兵士から報告が――」
「魔物……!?」
さっそく現れたのか。
予想していたより、ずっと早い。
いや、頭の片隅ではいちおう予測はしていた。
俺がウェンディと出会い、この世界においてゲーム本編と同じような流れが来ることは十分考えられることだからな。
だけど、ここまで早いとは――。
「歴史が動き出した、ってことか」
俺は気持ちを引き締める。
これは序盤のエピソード『迫る魔物の影』だろう。
領内の外れにある森に現れた魔物が、夜になると町に出て領民を襲う。
被害が大きくなる前に討伐したいところだが、領主である父は病床であり、実質的に領主の権限を持つディオンは遊び歩いていて、これを放置する。
結果、被害が拡大し、その噂を聞きつけたウェンディは学園を飛び出して魔物と対峙。
いよいよ彼女の【植物魔法】が本格的に覚醒し、魔物を退ける――という流れなのだが、もちろん俺は魔物への対処を怠るつもりはない。
ウェンディじゃない、俺が領民を守るんだ。
ルーシアから聞いた情報によると、領地の南に広がる森付近で魔物の目撃証言が複数あるのだという。
日中は森の中に身をひそめ、夜になると町に繰り出す――というのが、数日の行動パターンらしい。
その総数は不明で、一体という話もあれば、数体だという話もある。
ただ、ゲーム本編のイベントだと出現する魔物は一体だけだったから、おそらく今回の魔物も一体だけの可能性が高い。
……とはいえ、油断は禁物だ。
すべての出来事がゲーム通りに起きるとは限らないから、な。
俺はさっそく騎士隊の元へ出向いた。
「――以上だ。説明の通り、魔物はローゼルバイト領南部の森林地帯に生息している可能性が高い。よって、これより討伐に向かう」
説明する俺。
ずらりと並んだ騎士たちは数こそ多くないものの、一騎当千の猛者ぞろい。
その中には先日入ったばかりのバルゴの姿もあった。
剣術の才能Sランクの真価は、今回で問われるかもしれない。
「隊をA隊とB隊の二つに分ける。A隊は森林を捜索。魔物を発見次第、討伐する。B隊は最寄りの町で待機。A隊が魔物を討ち漏らし、町を襲った場合、これに対処しろ。作戦の概要は以上だ」
と、手短に説明する俺。
「諸君らの意見を聞きたい」
「問題ないかと存じます、ディオン様」
ベテラン騎士のナーガルが言った。
他の騎士たちも賛同しているようだ。
「よし、ではさっそく現場に向かう。表に数台の馬車を用意してあるから、分かれて乗りこめ。一人の犠牲も出さず、この作戦を終えよう――行くぞ!」
「承知いたしました、ディオン様!」
俺の号令に、騎士たちは力強い声で答えた。
ぐおおおんっ!
ローゼルバイト領内、南部の森林地帯――。
馬車で数時間かけてたどり着くと、森の入り口付近から凶暴な雄たけびが聞こえてきた。
「さっそくお出ましか」
俺は二つに分けた騎士隊のうちの魔物討伐チーム『A隊』とともに、馬車から降りた。
ちなみにもう一チームの『B隊』はすでに最寄りの町に到着しているころだ。
俺たちが魔物を討ち漏らした場合、B隊が町を守る手はずだった。
もっとも――討ち漏らすつもりはない。
「ここで全部倒す。いいな!」
剣を抜く俺。
騎士たちもいっせいに剣を抜いた。
A隊のメンバーはナーガルを筆頭に討伐経験が豊富なベテランぞろい。
その中に、初の実戦である天才騎士バルゴも混じっている。
今回のことで経験を積ませたい、ということで俺が彼をA隊のメンバーとして指名したのだ。
ぐるるるる……!
森の中から、うなり声とともに巨大な魔物が現れた。
さあ、討伐タイムだ。
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