3 最強騎士との出会い
「君、ちょっといいかな」
「……なんでしょう?」
声をかけると、バルゴはぶっきらぼうな態度で俺を見た。
他の農民たちみたいに怯えた様子はない。
まっすぐ俺を見つめている。
その気配はまるで剣のように研ぎ澄まされ、こうして向き合っているだけで鳥肌が立ってくる。
その気迫に呑まれないよう、俺は気合いを入れ直し、
「バルゴ・ルドラー。君の剣を俺に貸してくれないか?」
「剣……ですか? 僕は農民ですが」
「君には素晴らしい才能がある。農民ではなく騎士になってみないか?」
俺は重ねて言った。
もちろんこれにも【人心掌握】のスキル効果が乗っているから、バルゴの心に響いたはずだ。
とはいえ、結局のところ心を揺さぶられるかどうかは、スキル効果ではなく俺が話した内容自体が、相手に響くかどうかだ。
どんなにスキルを載せても、言葉の内容が薄かったり、的外れだったり、あるいは相手にとって無用の内容なら響くはずがないからな。
「本来なら君はもっと評価されるべき人材だと思う。その剣の素質はすさまじい。なのに、なぜ騎士ではなく農民をやっている? よかったら聞かせてくれないか」
「理由と言われても……」
バルゴは困惑した様子だ。
「僕は、領地を追われた騎士の家の出なんです。父がそのときに仕えていた領主と反りが合わなくて……だから父は僕に騎士じゃなく農民になってほしかったみたいです」
「なるほど……」
「その父も数年前に流行り病で亡くなりました。母は僕を産んですぐに亡くなっていますし、身寄りがなくなった僕はここで助けてもらいながら、農民としてやっていく道を模索しています」
「俺は君を騎士候補として欲しいと思っている。ただ、一番に尊重されるべきは君の意志だ」
俺はバルゴを見つめた。
「君は何になりたい? 農民か、騎士か? あるいはまだ定まっていないなら、一度試しに俺の元に来ないか?」
あまりがっつきすぎると相手が引いてしまうかもしれない。
ただ、俺の熱意は伝えておきたい。
そのギリギリのバランスを上手く表現できただろうか?
「ディオン様はそこまで僕のことを……? でも、僕にそこまでの剣の才能があるとは」
「あるさ」
俺はにっこり笑った。
「これでも人を見る目は確かなつもりだぞ?」
俺には【鑑定】スキルがあるからな。
「君はどう思っているんだ? 自分に剣の才能がないと本気で思っているのか?」
「才能――」
バルゴはハッとした顔になる。
「分からないです……」
首を左右に振った。
「正直言って、僕は自信がないので……」
――ん? 急に態度が変わったな。
第一印象は精悍な雰囲気を感じたのに、今は随分と気弱そうに見える。
その二面性はどこから来るのか――。
「分からないなら、なおのこと俺の元で試してほしい。そのうえで君が判断すればいい」
俺は身を乗り出した。
「……分かりました。ディオン様がそこまで仰るなら」
バルゴはうなずいた。
二時間ほどで視察を終えると、俺はバルゴを城に出迎えた。
訓練場に案内する。
そこには、ローゼルバイト領で選りすぐられた騎士たちが並んでいた。
バルゴを招待する前に俺が声をかけておき、ここに集めたのだ。
彼らは怪訝そうに俺と、もう一人――一緒に連れてきたバルドに視線を向けている。
「……おいおい、まさか農民上がりのガキを訓練場に入れるってのか?」
「またディオン様の気まぐれかよ……」
「俺たち、忙しいんだけどな」
騎士たちは不満げだ。
彼らからしたら、バルゴは素人の子どもである。
エリート集団である自分たちの中に、そんな少年が混じっていること自体が不快なんだろう。
「…………」
バルゴはここに来た当初こそ緊張気味だったが、今はすでに落ち着いているようだった。
いざとなれば肝が据わる――。
うん、いい傾向だ。
「さあ、見せてくれ。君の剣を」
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