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25 花乙女の力

「私……ディオン様が噂のような方とは思えませんでした」


 ウェンディがはっきりした口調で言った。


「確かに、ひどい噂を聞いたことはあります。ですが、噂はしょせん噂……真偽は分かりませんし、尾ひれが付いていることだってあり得ます。私は……やっぱり自分の目で見たものを信じたいです」

「……そうか」

「私にとってのディオン様は、こうして薬草を拾ってくださった優しいお方、という事実だけです」

「そう言ってもらえるのは嬉しいよ、ウェンディ」


 俺は彼女に微笑んだ。


「ただ、噂が流れるのは俺自身の不徳――だから、これからの行いで覆そうと思っている」

「大丈夫ですよ。本当のディオン様は、きっと噂とは違う――こうして話しているだけで伝わります。あなたの言葉の一つ一つが、私の心を震わせるようです」


 ……うん、それはスキル効果なんだ。


 内心でツッコみつつ、


「今日は君と出会えてよかった」

「そんな……私なんて、なんの取り柄もない平凡な生徒ですし」

「取り柄ならあるさ。君には素晴らしい才能がある」


 俺は力を込めて言った。


「植物魔法の、ね。俺にはそういう『他者の才能』を読み取る力がある」

「スキル……ということですか? でも、私は植物魔法なんて、大したことは――」

「使ってみてくれないか?」

「えっ」

「君には天才的な力がある。それを俺の前で見せてほしい」

「天才……?」


 怪訝そうにつぶやきながら、ウェンディは籠に入った薬草を一つまみした。


「自信を持つんだ、ウェンディ」


 俺は彼女を見つめた。


「で、では……」


 ウェンディが植物魔法の詠唱をする。

 すると、


「……えっ?」


 ウェンディが手にした薬草は少し萎れていたが、みるみるうちに生気を取り戻していった。


 生命力にあふれかえらんばかりだ。


 花弁が開いて、周囲に瑞々しい香りが広がった。


「な、何、これ……?」

「それが君の本当の力だよ」


 俺はウェンディに微笑んだ。


 これは――ゲーム内にも存在するイベントだ。


 彼女の、植物魔法の覚醒。


 ゲームのタイトル通り『花乙女』としての目覚めである。


 そして、それは彼女が攻略キャラクターの誰かから『自信を持て』と勇気づけられることで起こるイベントだった。


 その言葉をかける相手は状況次第で分岐するんだけど、俺の【人心掌握】スキルを使えば、似たような効果を引き起こせるのでは? と思ったのだ。


 予感的中、だった。


「これ、私の力……?」

「ああ、君の才能だよ」


 俺はウェンディを見つめる。


「……ううん、これはディオン様が勇気づけてくれたからです」


 ウェンディは俺を見て、微笑んだ。


「私……ずっと自分に自信がなくて。学院でも成績最底辺で……でも、ディオン様のおかげで、少し自信が持てそうです」

「少しと言わず、大いに自信を持てばいいさ。俺が保証する。君は天才だ」


 俺は彼女の手を取った。


「ディオン様……」


 ウェンディの顔が赤らむ。


 ……ん、ちょっと待て。


 もしかして、これって……俺がウェンディの攻略対象みたいになってないか?

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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