21 錬金術研究所
馬車に十分ほど揺られた後、俺たちは目的地に到着した。
大通りから少し離れているから喧騒も少なく、商業区までの距離も近いから、材料の買い出しも楽だろう。
研究所としては悪くない立地だと思う。
「降りようか。実際に君に見てほしい」
俺はセレスティアに手を差し出した。
「へっ!? ふわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
とたんに叫び出すセレスティア。
「? どうしたんだ?」
「て、手を取ってもらえるなんて、なんだか、これはその、あれですか! お姫様扱いですか! この非モテの! 私を!」
セレスティアって非モテなのか……?
地味な印象はあるものの、相当の美少女なんだが。
「ただのエスコートさ」
「わ、私、男性からこんな扱いを受けたのは初めてです。しかもディオン様のような素敵な方から……ふわわわわわ」
セレスティアは顔を真っ赤にしていた。
それから震える手を伸ばし、
「よ、よよよよよよよよろしくお願いしますぅぅぅ……」
「緊張しすぎだよ」
「男の人と手を握るなんて、生まれて初めてなので……ぇ」
セレスティアの声はかすれていた。
俺たちは並んでその場に立った。
研究所の建設候補地である。
「うん、申し分ない立地だと思う。セレスティア、君の意見も聞きたいが――どうだろう?」
「そうですね……」
セレスティアは周囲をキョロキョロと見回している。
「わ、私……えっと、どういうふうに判断すればいいのか、えっと」
戸惑っているみたいだ。
「君が感じたままを言えばいいんだ。漠然とした印象でもいいし、細かな注文でもいい」
俺はゆっくりと、彼女を落ち着けるような口調を心掛けた。
「これから建てるのは君の城だ。君が自由にしていい場所だよ。だから遠慮する必要はない。思ったままを言ってほしい」
「思ったまま……そうですね、静かそうで研究に打ち込めそうな気がします」
セレスティアはあらためて周囲を見回し、言った。
「それに空気も澄んでいる感じがして、私、この場所……好きになれそうです」
「そうか」
「あ、す、すみません! こんなの錬金術に関係ないですよね? 私、えっと……」
「いや、それでいいんだ。つまり君は気持ちよく研究に打ち込めそうな場所だ、という感想を抱いたんだろう? 違うかな」
「あ……そ、そうですね」
セレスティアが俺の言葉に考え込みながらうなずいた。
「そうかも……確かに」
「そういう印象こそが大切だと思う。もちろん交通の便とか、立地条件も大切だけどね」
俺はにっこりと笑い、
「候補地はあと二カ所あるんだ。順番に回って、それから君が判断するといい」
――というわけで、残りの二カ所もセレスティアと一緒に回った。
そのうえで彼女が選んだのは最初に立ち寄った候補地だった。
「私……最初の場所が一番気に入りました」
セレスティアが俺を見て言った。
今までより、ずっとはっきりした口調で。
うん、問題なさそうだな。
もともと立地条件自体は申し分がないし、セレスティア自身が気に入ってくれたなら、もうここに決めてしまっていいだろう。
「分かった。じゃあ、そこに君の研究所を設立するよ」
「でも……ディオン様」
セレスティアがポツリとつぶやいた。
「なんだ?」
「本当に私でいいんですか?」
セレスティアが俺を見つめる。
その瞳が、揺れていた。
「私、ただの薬師見習いですよ。実家が貴族とか、魔法の名門とか……そういうのは全然ないですし。それを急に才能があるとか、研究所を任せるとか――」
「君には才能がある。君はまだ自分を信じ切れていないようだから、俺が代わりに何度でも言うよ」
俺はセレスティアを見つめ返す。
「君には天才的な錬金術師の才能があるんだ。その力を伸ばし、活かし、俺の力になってほしい」
俺たちの視線がぶつかり合い、絡み合う。
「……分かりました」
しばらくして彼女はうなずいた。
「すみません、何度も弱気になって……」
「いいよ。君が自分を信じられるまで、俺が君を傍で支えるから」
「ディオン様――」
セレスティアは顔を赤らめ、うつむいた。
「ありがとうございます……」
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