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20 錬金術師セレスティア

 館の玄関前。


 俺は馬車の前でセレスティアと待ち合わせをしていた。


 今日の目的は彼女の錬金術研究所の候補地を視察することだ。


 今までは仮設研究所を提供していたんだけど、錬金術師としてSランクの才能を持つセレスティアには、やっぱり本格的な研究所が必要だ。

 と、


「で、出かけるって、私とディオン様の二人っきりですかっっっ!?」


 悲鳴のような声が聞こえてきた。


「て、てっきり何人かで行くものかと――」

「いや、俺と君がいれば事足りると思って」

「二人っきり……二人っきり……」


 セレスティアは顔を真っ赤にして、両手をばたつかせている。


 かなり戸惑っているらしい。


「……いちおう『二人で』と伝えたつもりだったけど、うまく伝わってなかったか?」

「い、いえ、その、私……ディオン様の前に出ると、緊張するというか、舞い上がるというか、その……」


 セレスティアはまだ慌てているようだ。


「ちゃんと聞いてませんでしたっ。すみませんっ!」

「いや、いいんだ」


 俺は微笑して答えた。


「もちろん、もう少し大勢で行きたいと言うなら、君の意向に従うよ。あくまでも主役は君だ」

「い、いえ、ちょっと面食らっただけで……二人で、大丈夫です……」


 セレスティアがうなずく。


「……よし、覚悟完了……っ!」

「覚悟?」

「そ、その、そういう展開になったときの……」

「そういう展開……?」

「もしかして馬車の中でいきなり揺れて、その拍子に顔が近づいたり、あまつさえ、く、く、口づ……い、いえ、なんでもありません! きゃーっ!」

「?????」

「今のは私のっ! ただの妄想ですっ! さ、さあ、行きましょう!」


 今日はテンションが変だなぁ、セレスティア。




 俺たちは馬車に乗って出発した。


「こ、こんなに立派な馬車に乗るのは初めてです……」


 対面の席に座っているセレスティアは落ち着かない様子だった。


「そうなのか?」


 この馬車はローゼルバイト家の豪華な馬車だからな。


 確かに平民が乗る機会は中々ないか。


「乗るとしたら荷馬車くらいです……」

「これからは研究所の責任者になるんだし、こういう馬車を使ってくれ」

「ええっ、私なんかが――」

「研究所の責任者になる、って言っただろ。君はそれだけの地位に立つんだ」


 俺は微笑んだ。


「責任者って言われても、やっぱり私なんかが――」

「君には錬金術師として素晴らしい才能がある。それを伸ばすために研究所を君に与えるんだ」


 俺は身を乗り出して言った。


「君は自分の才覚でこの地位を得たんだから、胸を張ればいい」

「む、胸っ!?」


 セレスティアは自分の胸元を手で押さえ、俺をチラチラと見た。


「い、いや、そういう意味では……」

「……私、そういう雰囲気に慣れてないので……」

「っていうか、俺も慣れてないから」


 言って、俺は話題を戻す。


「とにかく、君には才能がある。設備や必要なものは俺の方で用意するし、金もかける。だから君は存分にその力と知識を振るってほしい」

「そんな風に言われるとプレッシャーが……で、でもディオン様に言われると、なんだか頑張れそうな気がしてきました――」


 セレスティアはグッと拳を握り締めた。


「私、がんばります……っ!」

「その意気だ。期待しているよ」


 俺は微笑を返した。

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