19 ジュリエッタの想いは加速する(ジュリエッタ視点)
ジュリエッタ・フォルテは子どものころから『完璧な貴族令嬢』であることを求められてきた。
父にも、母にも、周囲の人間すべてから。
名門フォルテ侯爵家の娘として、美しく聡明で気品に満ちた存在であることを求められていた。
実際、自分はその務めを果たしてきた、とジュリエッタは自覚している。
誇りにも思っている。
それは彼女を大切に育ててくれた父母や、使用人たちも同じだろう。
ジュリエッタはフォルテ家の誉れ――。
だが、それは同時に重圧でもあった。
そして自分の全身を縛る鎖でもあった。
ジュリエッタはずっと閉塞感を覚えながら生きていた。
本当は友人とくだけた話もしたいし、気品などを気にせず肩の力を抜いて過ごしたい時だってある。
それに――恋だってしたい。
けれど、フォルテ家の令嬢にそんな生活は許されない。
完璧であること――。
そんな仮面を取り外したかった。
だから、ジュリエッタが手芸に傾倒していったのは、ささやかな反抗だった。
庶民的といえる趣味は父母が望むものではないと知っていたが、彼女は糸と針で自分の思い通りの作品を紡ぐのが好きだった。
ただ、そのことは誰にも隠していた。
みんなの望む令嬢でいるために――。
「なのに、彼は」
ジュリエッタは今日のことを思い返す。
「ふうっ……」
熱のこもった息がもれた。
彼は、ジュリエッタの趣味のことを受け入れてくれた。
等身大の自分を認めてくれた。
素直に、自然に、受け止めてくれた。
それが嬉しかった。
ただそれだけのことが、何よりも嬉しかったのだ。
初めて出会ったときには、冷徹で傲慢で、嫌悪感しか覚えなかったのに。
こんな男といずれ結婚するのかと思い、悲哀と屈辱で涙を流したというのに。
政略結婚なのだから仕方がない。
貴族にはよくあること。
そう自分に言い聞かせたが、今まで父母から受けていた愛情も、実際には自分を政略結婚のより良い道具として育てるための方便だったのではないかと思えてならなかった。
いっそ彼を糾弾して、婚約破棄できないかと考えたこともある。
けれど――その気持ちは一気に薄れた。
いや、消え去ったと言っていい。
初めて会ったころが嘘のように、今のディオンは魅力的な少年だった。
一緒にいるだけで心が浮き立つのを感じる。
そして今日の一件で、その気持ちは一気に加速した。
「もう少し……今のままで……」
ジュリエッタはまた熱い息をもらした。
すでに頭の中から婚約破棄の文字はない。
今はただ、ディオンにまた会いたい……それだけを考えていた。
胸の奥に宿った甘いときめきは、消えそうになかった。
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