18 俺は婚約者とイチャイチャしなければならないらしい4
農園を見回った後、俺たちは最後に市場にやって来た。
青果や山菜、肉に調味料……と様々な食材が並んだ店。
他にも雑貨や服飾の店など。
多種多様な店が並んでいて、現代風に言うならショッピングモールに近い感じだ。
「こういうところって見てるだけで楽しいよね」
「ええ、思った以上に色々な店があるのね」
ジュリエッタが周囲を見回しながら微笑む。
完全にデートだな、これ。
前世ではデートらしいデートすら未経験の俺にとっては、ちょっと緊張するシチュエーションだ。
それでもある程度の落ち着きを保っていられるのは、今の自分が前世よりもずっとハイスペックであるという自覚と、そしてもう一つは――、
「連れてきてくれてありがとう、ディオン。とても楽しいわ」
心から嬉しそうなジュリエッタが側にいてくれるからだ。
「俺も、君と一緒にここに来られて嬉しいよ」
「本当?」
ジュリエッタがまた微笑む。
俺も彼女も始終笑顔だった。
と、
「ねえ、あの店を見ていってもいい?」
彼女の視線の先にあったのは、手芸店だった。
店先には色とりどりの布地や刺繍糸、フリルにリボンなど様々な品物がならんでいる。
「手芸用品?」
「ええ……ちょっとだけ……」
「時間なんて気にせずに見ればいいさ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……一緒に行きましょ?」
と、手を引かれ、俺たちは店内に入った。
……なんか自然に手をつなぐようになってきたな。
ジュリエッタの方は足取りが弾むようだ。
『ちょっとだけ』なんて言ってるけど、かなり楽しそうだし、彼女が満足するまで付き合おう。
俺はそう心に決めた。
デートの作法って、そんな感じでいいのかな?
すべてが初心者なので、よく分からないけど――。
「へえ、これいいなぁ……あ、こっちも……ふふ」
ジュリエッタは布地を見回したり、リボンを見比べたり、満面の笑顔だった。
あるいは糸を手に取り、質感を確かめたり――こういうのが好きなんだな、きっと。
ふと思いついて【鑑定】を発動する。
手芸技術:S
えっ、すごい!
そういう技能もあるのか。
でも貴族って、基本的に手芸なんてしないよな?
服飾品は全部普通に買うだろうし――。
「ジュリエッタって手芸が得意なのか?」
気になってたずねてみる。
「……っ!?」
驚いた顔で振り返る彼女。
「えっ、ど、どうして――」
「いや、すごく楽しそうだし、それだけ好きならきっと上手なんじゃないか、って」
いわゆる『好きこそものの上手なれ』だ。
「実はこういうのが好きなの、私」
言ったジュリエッタの表情は、だけど少し暗く感じた。
「お母様は『貴族の娘が手芸なんて熱心にやるものじゃない』って、あまりよく思っていないみたい。そういうのは職人の領分で、貴族の娘なら社交界のことにもっと力を注げ、って」
しかも前のディオンは彼女を全然社交界に誘わなかったんだものな。
「だから、この趣味のことは家では言わなくなったわ。今日、こうして連れてきてもらえて、すごく嬉しかった」
「そうか……」
俺は彼女の肩に手を置き、
「じゃあ、またここに来よう」
「えっ」
「好きなんだろ? だったら俺とのデートのときに立ち寄ればいい」
「ディオン……」
ジュリエッタは顔をパッと輝かせた。
「ありがとう――!」
こうして、俺はその日のデートを終えた。
俺にとって、ほとんど人生初といっていいデートだ。
俺は楽しかったし、ジュリエッタも……楽しんでくれたんじゃないだろうか?
今日は彼女の色んな一面を見ることができて楽しかったな。
また、いずれ彼女と一緒に出掛けたいものだ――。
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