16 俺は婚約者とイチャイチャしなければならないらしい2
「お招きいただいてありがとう。ディオン」
彼女は微笑むが、その瞳には警戒の色があった。
「ようこそ、我が婚約者」
俺は爽やかな笑顔を心掛け、彼女を出迎えた・
「こうして君に会えたことを心から嬉しく思う。今日の君も、とても美しいよ」
「……この間も思ったけど、あなたって本当にディオン?
ジュリエッタが眉間を険しく寄せる。
ジト目だ。
「別人にしか見えないんだけど」
「そうか? 正真正銘のディオン・ローゼルバイトだろう? どこからどう見ても」
「外見以外は別人だって言ってるの」
ジュリエッタはさらにジト目になった。
「あなたから私を招くこと自体が変だけど、その態度はもっと変」
「お気に召さなかったか?」
「……っ! べ、別にそういうわけじゃないけど――」
言いながら、ジュリエッタの顔が赤くなった。
「面と向かって、美しいとか言われると……そのっ……て、照れる……からっ……! う、嬉しくないわけじゃないけど……っていうか、やっぱり嬉しい……かも……だけど、でも……恥ずかしい……」
モジモジしている。
しかも口元が明らかに緩んでいる!
なんだ、普通に喜んでいるんじゃないか。
よし、やっぱりジュリエッタはチョロイン枠だな。
「今日はの視察は領地の商業区と、新しく開発する予定のワイン農園を見に行くよ。ついでに市場も回るつもりだ」
俺はジュリエッタに微笑みかけた。
「雑貨や小物、服なんかも色々あって、君も楽しめるんじゃないかな」
「へえ、いいじゃない」
ジュリエッタは興味を引かれた。
「あ、でも視察なのよね」
「最初の二つは仕事だけど、最後の一つは娯楽も兼ねている。俺だって仕事の息抜きの一つくらいはほしいさ」
俺は苦笑した。
「そこに君がいてくれたら、楽しいデートになるだろう?」
「……本当にどうしちゃったの、ディオン?」
……うん、どうしちゃったんだろう、俺。
勢いに任せてベラベラしゃべってしまっているけど、前世の俺は女の子を相手にこんな態度を取ったことがない。
取れるようなキャラじゃなかった。
異世界転生して、どこか気持ちが吹っ切れたことが一つ。
あとは――やっぱりディオンは総合的に優秀な人間だし、イケメンだし……女の子と話すときでも自分がハイスペックだという自覚があると、余裕をもって話せるんだよな。
「さあ、行こうか。お手をどうぞ、ジュリエッタ」
と、俺は彼女に手を差し出す。
転生してから、キャラ変わっちゃってるな、俺――。
馬車に揺られながら、領内を進んでいく。
道行く人々の顔は暗い。
領内の現状と、これからの没落を暗示しているかのように。
とにかく――町全体から『覇気』が感じられないのだ。
「なんとかしなきゃ、な……」
俺はつぶやいた。
「どうかした?」
それを耳ざとく聞いて、たずねるジュリエッタ。
「俺は、ゆくゆくは領主になる。この町をもっとよくしていきたいんだ」
「ディオン……?」
「今まで俺が何もしてこなかったのは分かってる。でも――いや、だからこそ今後の行動で償いたい」
言葉に力がこもる。
もちろん、それは自分自身の没落と破滅を避けるためだ。
第一の動機はそこだ。
けれど前世を思い出して、短い期間ながらもこの世界の人たちとかかわって、親しくし始めて――俺の中に『自身の生存』とは別の欲求や感情が芽生えていくのを感じていた。
「この領地をよくしたいんだ。領主の代理として。そして、この町に生きる一人の人間として――」
「ディオン――」
「あ、ご、ごめん。なんか語っちゃって」
俺は頬が熱くなるのを感じた。
急に照れくさくなってきた。
人前で、こんなふうに夢や思いを語るのって、生まれて初めてだ。
「そういう一面があったんだ……」
ジュリエッタがポツリとつぶやく。
「それとも――今のあなたが本当のディオンなの?」
俺を見つめる目には、温かな光が宿っているように思えた。
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